――拝啓おふくろ様 前回かなりシリアスだったというのに凝りもせず再び文を送ってしまうバカ息子をどうかお許しください。 といいますのも、こうして自立を目指して郁乃様にお別れを告げたのはいいけれども、 一体全体脱出に向けてどう動いたらいいものかと決意十分目にして途方に暮れてしまったからでございます。 脱出用の船、またはヘリなどを探すという方針は打ち立てたのですが、そんなものがわたくし達の手の届く場所にあるわけもなし、 かといってこの殺し合いを開催いたしましたこのクソな連中どもの大本営に竹槍突撃を敢行したくても場所が分からず、 まさに八方塞がりという状況なのでございます。 それでも『諦めません、勝つまでは』と不屈の闘志を己が身に宿しているわたくしは取り合えず、 助手兼パートナーであるほしのゆめみさんと肩を寄せ合って地図と睨めっこをしていたのですが、 あまりにも見当違いなこと(船が島の端にあるだとか)をおっしゃるばかりで泣く泣くわたくしは二軍へと降格させ、 マスコット兼毛玉のポテトと遊ばせておくことにしました。 それから、数十分が経過したのですが…… * * * 「あー、やっぱ検討もつかん。どうしろってんだ」 俺は床の上に身を投げ出すようにして寝転がる。 乗り物を探すといっても俺達の手の届くような場所にあるわけがないのは承知済みなのだが…… それを踏まえた上でどう動けばいいのかが分からない。 以前手元にあったフラッシュメモリは戦闘のどさくさに紛れて行方知れずとなってしまったし…… まだ見てない項目があったのに。おのれ高野山。 ……そういや、何を考えて主催者はそんなものを寄越したんだろうか。 殺し合い、という観点から考えれば支給武器などに関する情報は大いに力となり得るし、それは理解出来る。 問題なのはちょこっとだけ見た『解除』のスイッチだ。 解除、と聞けば大抵の人間はこの首輪の解除……を思いつくだろう。 よく考えてみれば、それは参加者の人間が希望を抱かずにはいられない言葉じゃないのか? つまり、殺し合いに対して反抗の意思を見出せる道しるべとして。 無論スイッチ事態の真偽は不明だが、多かれ少なかれ参加者の心理に影響を及ぼすのは間違いない。 一応、これでも人間の心理に関してはそれなりの知識はある。伊達にあのFARGOで働いていたわけじゃない。 話を戻すと、希望を持たせて何になるというのか。 主催者にとって最も考えたくないケースは殺し合いをする人間がいなくなり、歯向かう人間ばかりになる……という構図だろう。 たとえ参加者側に何も打つ手がないとしても、主催からとってみれば殺し合いをしなくなった時点で困るのはそちらだ。 目的なんて何も分からないが、最後の一人まで殺し合わせる、ということを考えればこんな希望を持たせるような支給品はあってはならない。 だが奴らはそれを支給した。そこには必ず何かしらの意図があると見て間違いない。 それは何だ? 解除。それがキーワードだろうな…… が、考えることは得意じゃない。そもそもそういうことはどっかの探偵がやるべきことで、一般人の俺がやることじゃないんだよな。 まぁ今の状況じゃそういう贅沢は言えないんだよな。自分で考えるってのは、難しい。 「高槻さん。どうですか?」 ぴこぴことポテトと戯れていたゆめみさんがなんともまあ暢気な声で尋ねてくる。 戦力外通告を出したのが他ならぬ自分だとは言え、不平を述べたくもなる。 気をきかせて何か役に立ちそうなもん探してくるとかさ、お茶菓子を持ってくるとか、 最近流行りの乗馬マッスィーンを披露してくれるとか…… ロボットに期待するのは酷ですか、そうですか。 世の中に存在するというバナナが好きなアンドロイドとか、 様々な技能(夜のお勤め的な意味で)を備えているなんたら100式とかなんて絶対嘘っぱちだと思うことを決意しつつ、 俺は首を振ってノーアイデア、孔明の策は何もないことを告げる。仲達よ、今度はそちの頭脳を見せてもらおうか。 「いえ、高槻さんが何も思いつかないならわたしにはとても……」 ですよねー。分かっていたとはいえつくづくこいつはロボットなのかと疑いたくなるときがある。 ……もしかして、中身は人間だったりしないだろうか。試してみよう。 「ゆめみ、76×43は」 「3268です」 「『這坊子(はいぼこ)』の意味を答えよ」 「這坊子というのは『はいはい』をする頃の赤ん坊の事を言って、セミの幼虫が地中から出てまだ脱皮する前のものを指す事もあります」 パーフェクトだ、ウォルター。 とりあえずいずれも即答していることから考えて一通りの知識はあるらしい。が、応用力が足りない。 なるほど、学習していないコンピュータか…… くそ、こうなれば仲間を集めにいく、くらいしか現状で出来る事がないな。以前の行動指針に逆戻りしたってのが何とも情けない話だが…… 「あの、そんなに落ち込まないでください。わたしもまだまだ力不足ですが、きっとお役に……」 とは言いつつも、どこか不安げな表情のゆめみに、俺は弱気になっている自分に喝を入れる。 そうだ、俺は絶対こんな島から脱出してやると決めたんだ。俺がやっと、自分ってやつを持とうって思ったのに、こんなところで死んでたまるか。 何より……ここで弱気になってたら郁乃に笑われる。それこそ小馬鹿にしたように、鼻で笑って。 冗談じゃない。あんな小娘に見下げられるほどこの高槻は落ちぶれちゃいない。 そもそも俺はまだ動いてすらいないではないか。まず動かないことには何も分からないしな。大山鳴動して鼠一匹だ。 なに、意味が違う? いいんだよテンションに身を任せているんだから。 とりあえずカッコイイこと言って鼓舞しようって寸法よ。分かったかね諸君。 「よし、心気一転して情報整理といこうじゃないか。取り合えず、無学寺を出てから俺達はなにをしようとしてた?」 会話のキャッチボールは続ければ続けるほど心の調子も上がってくる。甲子園球児が常時クライマックスなのもこれが理由だ(と考えている)。 話を振られたゆめみ、流石にそこはロボットの本領発揮ですらすらと言葉を流してくれる。 「確か最初は久寿川さんのお知り合いで、まーりゃん先輩という方を追うために鎌石村に行く予定でした」 「ああ、とんだ邪魔と……放送のせいでその優先度は低くなったがな」 「久寿川さん……」 先の放送でささらと、一緒に付いていった貴明ってガキも名前を呼ばれた。俺を罠に引っ掛けたあのチビ女も。 道中で別の奴に襲われたか、それともまーりゃんを説得し損なって返り討ちにでもされたか。 どちらにせよ、これでまーりゃんが見境なく他人を襲う、無差別殺人鬼になった可能性はかなり高い。 見た限り、敵対してはいたものの久寿川とは親しい関係にあったようだしな。でなきゃ、『止める』という単語が出てくるはずがない。 どうせあの二人を生き残らせようとかそんな考えで殺しを始めたんだろうが、すっかりおじゃんってワケだ。 悪いが、こちらは同情する義理はない。勝手に野垂れ死んでろって感じだな。 もし出会ったら……容赦なく殺らせてもらう。宮内をやったのは奴だし、間接的に久寿川たちの死因にもなっている。 ともかく、鎌石村に行く必要性はかなり薄い。 「あ、それと……船を探すという目的もありました」 「……は?」 お前は何を言ってるんだ、と若干キレ気味な近頃の若者風味にゆめみを睨みつける。 船なんてあるわけないだろと何度言ったら分かるのか。 大体、そんなものが島に置いてあったらひゃっほいやったぜベイビーと喜び勇んで優雅な船の旅に出るっちゅーねん。 そんな俺の感情を感じ取ったかあるいは声の調子にビビったか、少し涙目になりながら「で、ですが」と続ける。 「高槻さんが言い出したことでした……岸田洋一が乗ってきた船があるかもしれないからついでに探すぞ、と」 ……ん? そう言えばそんなことがあったようななかったような……あ。 「で、ですので、わたしなりに考えて外部からこの島にやってきたのだとしたら、 どこに隠しておくかというポイントを申し上げたつもりだったのですが……」 「それを早く言えっ! 急に『船はここに置かれていると思うのですが』とか言われても分かるか!」 「いや、でも、高槻さん自身が言い出したことですし、てっきりそのことをいつも念頭において話されているのかと……も、申し訳ありません!」 本気で涙目になりながらぺこぺこと平謝りするゆめみ。 いや、待て。よく考えれば悪いのは脳裏からぽーんと忘却の彼方へ投げ去った俺じゃないか。 なんだこれ。いじめっ子? バカな、『年間女の子を大切にする男NO.1』の地位を保ち続けてきた俺の、なんて無様な姿。 いかん。もっと余裕を持つのだ高槻。高槻クール、いやクール高槻になるんだ。 冷蔵されそうな名前だが、この際気にしないことにする。 「まぁ、その、なんだ……色々あったからな。ついうっかり思い出せなかったというか……孔明も筆の誤りというか。 あー、ともかくお前が言ってくれて助かった。流石はロボットだ」 「……本当に申し訳ありません。確認を取るべきでした」 しゅん、と落ち込んだままのゆめみ。また失敗してしまったことがショックなのだろう。俺のせいでもあるが。 よし、ここはフォローに回ろう。男の名誉を回復するいい機会だ。汚名返上とも言う。 俺はぽんぽんとゆめみの頭を撫でつつ、 「失敗はお互い様ってことだ。次生かせばいいんだよ。一つも間違えずに生きてこられた人間なんていないんだからな」 「……そうですね。また、小牧さんに叱られます」 おかしなことに、弱気になったときに出てくる名前が俺もゆめみに郁乃であることに、一種の笑いを禁じえなかった。 結局、いつまでたってもフォローしてくれるのはあいつって事か。……今回はお前の勝ちってことにしといてやるよ。 ひひ、と俺が笑いを漏らすとゆめみも落ち込んだ表情を解いた。 「では、今度からは確認を取るようにします。ところで高槻さん」 「お? 何だ?」 「孔明も筆の誤り、ではなくて弘法も筆の誤り、ではないかと思うのですが……わたしのデータベースが間違っているのでしょうか?」 「……」 おふくろ様。ゆめみさんはちょっと口うるさくなったように思われます。これはわたくしめの失敗なのでしょうか? そんなこんなで改めて地図を見直し、ゆめみさんの予測を立てた地点へと足を運ぶことにしたのでございます。 具体的に言えば、 B-3にある半島状の突出した部分、 D-1の離れ小島(行けるかどうかは分かりませぬが)、 I-3の小島郡などを目標とすることと致しました。 長々と書き綴ってしまいましたが、わたくしは今のところまだ元気でございます。 おふくろ様も、どうかどうかご自愛なさいませ。では。 * * * 追伸 「……ここを辿っていくとなりゃ、必然的に西回りのルートになるし、鎌石村にも自然と入ることになるか」 それは偶然なのか、皮肉なのか。通るだけとはいえ、何かに導かれたような気がしてならない。 あの二人の意思が、何とかしてくれと無念の声を張り上げているのだろうか。 オカルト的なものは、不可視の力だけで十分だと思っていたのだが。 ……どうするかについては、保留にしておこう。そもそもあの女に出会うと決まったわけじゃない。 ゆめみが何かを含んだ視線を向けているが、それも取り敢えずは無視だ。 「さて、後は持ち物の整理といくか。岸田のクソ野郎のお陰で武器だけは増えたからな。正直手に余るくらいだが」 「いくつか、捨てて行くのですか?」 言いながら、既にゆめみはデイパックから荷物を取り出し始めている。 切り替えが早いのは助かる。……これくらいツッコミの回転も速ければな。 全く惜しい人材だ。新ジャンル:お笑いロボ芸人が誕生するのはいつの日になるやら。 「ぴこぴこ」 「お前もなんか武器の一つくらい装備できないものかねぇ。……ってもその体型じゃあ無理か」 新ジャンル:お笑い未確認毛玉生命体の権化たるピコ麻呂ことポテトが出番をくれとばかりに擦り寄ってくる。 残念だが貴様の出番はこの地味な作業の流れでは皆無だ。とっとと見回りの一つでもしてこい。 「ぴこー……」 ハリウッド出身の役者(犬だけど)は派手なアクションでしか本領発揮はできないのだ。 ああ悲しきかな、人語を話せないとロマンスには結びつかないのです。 まぁ俺とゆめみがロマンスすることは俺がギャルゲーのヒロインになることくらいありえない話だが。 ぴこぴこと煤けた背中を見せながら家の外へと見回りに行ったポテトを残し、黙々と作業を続ける俺達……というわけにはいかなかった。 「そういえば、高槻さんはどのようなお仕事をなされていたのですか? 高槻さん自身の話はあまり聞いたことがないのですが」 「あ? ……しがない研究員だったさ。どうしてそんなことを聞きたがる」 「そのように、設計されていますので」 要するに、『客』とのコミュニケーションを欠かさないように設計されているのだろう。 学習する(ゆめみにそれが働いているか怪しいものだが)人工知能を搭載しているゆめみにとっても会話は学ぶにも最適の行為だ。 よく喋るとは思っていたが、そういうことか。いいだろう。どうせロボットだ。勉学のためにも付き合ってやろうじゃないか。 「ある未知の力に関する研究をしていてな。 ……以前にも言ったように、ただ命令されていたことをやっていただけだったから本当に研究していたかどうかは怪しかったが。 お前は、プラネタリウムの解説員だったか?」 「はい。とは言っても、まだ実際に配備されたことはないので、解説員予定、ですが」 「そうか、じゃあ今は無職ってことか……くく、ロボットは働き者、とは一概には言えないなぁ。ま、俺もじきそうなる予定だが」 「お仕事を、辞められるのですか?」 「……ああ。もうあそこに未練はなくなった」 実際はそれ以外の理由もあるが。 研究員が二人も連れてこられたばかりかAクラスの人間が二人もいる(うち一人は死亡が確認されているが)。 となれば、組織ぐるみでここの主催者に関与し、俺達を生贄として差し出したってところだろう。 無論、主催者が不可視の力に目をつけ、何かしらの圧力をかけてFARGOの権力を奪い取ったという可能性もある。 ……だとするなら、この殺し合いの目的の一端は、参加者間の不可視の力の発現を狙ったということも在り得る。 Bクラスの名倉由依や、Cクラスの巳間晴香がいるのはそういう理由もあるのかもしれない。 何にせよ、もう向こう側に戻る気はない。 こんな場所に連れてこられたってことは用済みってことだからな。リストラってやつだ。不況の世の中は厳しい。 「では、その後はどんなお仕事をなされるのですか」 「それは……」 考えていない。何しろ(死ぬ気はないとはいえ)生きて戻れるか分からない状況だ。 今を必死に生きるしかないので、そんな未来のことなど考える暇も余裕もなかった。 「お前の仕事はどんなのだよ」 結局、まだ明確に答えられるだけの自分が出来上がっていない俺はそう言って逃れることにする。 わたしですか、と話を振られたゆめみは、少し困ったように笑った。 「季節に応じた星座の解説や、その都度設けられた特別上映だとかの解説だと聞いてはいますが……まだ実際にやったことがないので、何とも」 ああ、そりゃやったことがないのでは実感もクソもあったもんじゃない。 バカなことを聞いてしまった。実際に配備されたことはないって言ってたのに。 「ですが、とてもやり甲斐のあるお仕事だと思います。 来てくださった方々に、遥かに遠い星々の海の世界の片鱗を、少しでも体感して貰えれば……これほど嬉しいことはない、そう考えます」 嬉々として答えるゆめみに、本来働くべき姿の人間を垣間見た気がした。 誰かが喜んでくれるなら。誰かのためになるのなら、それだけで仕事を続けられる糧になる。 自分のやっていることに意味を見出せるということは、生きていくだとか食っていくことだとかよりも重要なことだ。 何故なら、確かに世界を廻している、という実感があるからだ。 大袈裟な言い方かもしれないが、世界は常に誰かが何かをしているから動いている。 俺がやっていたことは、まるで意味もないことだったが。 「悪くねぇな」 弾を装填したコルト・ガバメントを手に握りながら、俺はそう答えた。 悪くない。そういう、愚直である種傲慢な生き方も。 「ありがとうございます」 僅かに照れたようにして、ゆめみは片手で一生懸命ニューナンブに弾薬を装填していた。 ……どこかに、ゆめみを修理できるような場所と、人材がいればいいのだが。 俺も機械工学は若干の知識があるとはいえ、ゆめみを修復しきるだけの自信はない。 回路が切れて、それを繋ぐだけ、というだけならこちらにも出来そうなんだがな…… 「ふむ、ちょっと見せてみろ」 「?」 きょとんとするゆめみが、何をすればいいのか分からず、取り合えずニューナンブを差し出す。 いや、こちらの言い方が悪かった。素直に脱げと言おう。 「脱げ。………………後ろ向いて。アレだ、撃たれた場所がどうなってるか確認したい」 一言言った後、それがかなりヤバい意味を持っていることに気付き、慌てて付け足す。 危ない危ない。如何に精巧な女の子型ロボットとはいえそれに欲情するほど落ちぶれちゃいない。たとえぱんつはいてなくても。 「あ、はい。了解しました」 が、当のゆめみさんは何ら躊躇することなく後ろを向くと器用に片手で服を脱ぎ始める。 おい、恥じらいというプログラムはされてないのか。開発者ちょっと表に出ろ。 とは思いつつもロボットの服の中がどんな構造なのか気にはなっていたので(か、科学者としてだからな!)、 正直幼子のようにワクワクしていたのは秘密だ。 「……スク水……」 が、中から出てきたのはどう見てもスクール水着と思しき服(?)だった。設計者、ちょっと表に出ろ。 「いえ、インナースーツです。わたしの仕様書にはそう書かれています」 「嘘だッ!」 「で、でも確かにわたしのデータベースには……」 ちらちらとこちらを見つつしどろもどろにインナースーツであると主張するゆめみに、俺はため息をつくばかりだった。 日本の未来は暗い。 「いや、まぁどうでもいい……悪いが、スク水、じゃなくてインナーも脱げ。地肌の部分がどんな状態かそれじゃ分からん」 「あ、はい」 またも無抵抗にインナーを脱ぐゆめみに、まず教えるべきは恥じらいだと年頃の娘を持つ親父みたいに思いながらぽりぽりと頭を掻く。 それにしても生身の人間と違い、肌が異常なほどに綺麗だ。いつの間に人類はこんな材質を開発したのか。 するりとインナーをずらす姿は並みの男なら欲情せずにはいられない光景だろう。 幸いにして変態ではない俺は下げられたインナーの端から肌が破れている部分を見つけると、 脱ぐのをやめるように指示し、撃たれた部分へと目を近づける。 が、どうなっているのかちっとも分かりゃしねえ。所々線のようなものが見えたりするが……手ぶらなこの状況ではどうしようもない。 「おい、自己診断プログラムとかないのか」 「それは既に実行していますが……左腕に繋がる神経回路が切断されている、としか」 ……ま、細かい部分の破損まで分かれば世話ないわな。 回路の切断だけなら応急処置で何とかなる、か? やはり道具は必須になってくるか。ついでに探しておかないとな。 「よし、もう着ていいぞ。荷物整理もそろそろ終わるし、そろそろ、本格始動と行くか」 ここに廃棄していくのはカッターナイフと写真集2冊。おたまは何故かゆめみが手放そうとしなかった。 どこぞのボーカロイドのネギじゃあるまいし、とは思ったのだが好きにさせておくことにした。 「ぴこー」 と、機を見計らったかのようにポテトが外から戻ってくる。 まだ雨は降っているはずなのだがやはり奴の体は濡れていない。どんな構造だ。 「おーよしよし。どうだった」 ぴこぴことジェスチャーをして偵察の結果を知らせるポテト。情報によれば人間の匂いが近くでするらしい。 雨に紛れてどんな人間かまでは分からなかったという。 上出来だ。なら優雅な遭遇といこうじゃないか。 俺は、久しぶりにニヤリと口の端を歪めた。 【時間:2日目・20:15】 【場所:B-5西、海岸近くの民家】 クール高槻 【所持品:日本刀、分厚い小説、ポテト(光二個)、コルトガバメント(装弾数:7/7)予備弾(5)、鉈、投げナイフ、電動釘打ち機12/12、五寸釘(10本)、防弾アーマー、89式小銃(銃剣付き・残弾22/22)、予備弾(30発)×2、ほか食料・水以外の支給品一式】 【状況:まずは接近している(らしい)人物に接近。船や飛行機などを探す。主催者を直々にブッ潰す】 ほしのゆめみ 【所持品:忍者刀、忍者セット(手裏剣・他)、おたま、ニューナンブM60(5/5)、ニューナンブの予備弾薬2発、S&W 500マグナム(5/5、予備弾7発)、ドラグノフ(0/10)、ほか支給品一式】 【状態:左腕が動かない。運動能力向上。高槻に従って行動】 【備考:19:00頃から雨が降り始めています】 【その他:カッターナイフと写真集×2は民家に投棄】 - BACK