「うっ…くっそお……」 七瀬彰(078)は負傷した右腕を押さえながら林の中を歩いていた。 (弾が貫通してくれたのが幸いだった……中に残っていたらどうなっていたか……) 止血処置はしたとはいえ、未だに右腕からは激痛がする。当分は激しく動かすことはできないだろう。 (――こんな時、もし敵が現れたら………) 先程の戦いで彼の支給品であるFNブローニング・ハイパワーMkVは失われている。 ただでさえ負傷しているのに武器もない状態で戦闘になれば間違いなくこちらが不利だろう。 (確かこの先に村があったはずだ…まずはそこに避難しよう。 それまで敵に遭遇しなければ……) ――ガサッ 「!?」 その時、近くで草をかき分ける音が聞こえた。 まさか敵!? こんなところで―― くそう。まだこんなところで死んでたまるか。 必ずこのゲームに勝ち残って美咲さんや冬弥、由綺たちと一緒にあのもとの生活に帰るんだ。 彰は木陰に身を隠すと敵と思える者が通り過ぎてくれるのを願った。 「はぁ…はぁ…」 ガサガサ… 静かな林の中に彰の息苦しそうな呼吸と、誰かが草をかき分ける音だけが響く。 ガサガサ… やがて彰の視界に自分より1、2歳年下と思われる少年の姿が映った。 「また銃声か? いったいこの辺には何人の殺し屋がいるんだよ?」 一升瓶を肩に担いだ少年が林の中を駆け抜けていく。 「生きていたらなんとか助けてやりたいが……間に合ってくれよ」 どうやら彼は先程銃声がした場所、すなわち、さっきまで彰がいた池を目指して進んでいるようだった。 「…………」 どうやら聞いたところによると、あの少年は敵ではないらしい。 そのため、彰は考えてみた。 (ここで彼に助けを求めて村まで連れていってもらおうか? それとも、このままやり過ごすのを待つか……) 彰としては後者がいいと思った。 自分はどちらかと言うとこのゲームに乗った身だ。 いずれ彼とは敵になるかもしれないというのに、そんな奴から情けをもらうのはどうかと思ったからだ。 (――でも、もしここで彼をやり過ごしたとして、その後にさらに誰か別の人が来て、それが敵だったら………) それも一理ありそうだとも思った。 (――僕ってこんなに優柔不断だったっけ?) 彰は考えれば考えるほど別の考えをうかべてしまう自分が少しおかしく思った。 「………なにやってんだ、あんた?」 「うわぁ!」 気がついたら先程の少年が自分の目の前にいた。 思わず1歩後ろに後退してしまう。 「あー。大丈夫だ。俺はあんたの敵じゃな……ん? おい、あんた。その腕どうしたんだ?」 少年こと折原浩平(016)は彰の負傷した右腕に目を止めた。 「その腕……誰かにやられたのか?」 「あ…ああ。まあね……」 「…バイキンとか入ったら大変だぜ。ちょっと失礼」 そう言うと浩平は持っていた一升瓶の栓を抜くと、その中身をいきなり彰の右腕の負傷していた部分にぶっかけた。 「いたっ!」 かけられた瞬間、傷口にしみて激痛が走った。 「君、いったい僕になにをかけたんだ!?」 「酒だよ。消毒薬の代わりにはなるだろ?」 浩平はニカッと笑いながらそう言って一升瓶の栓をしめた。 「で? これからどうすんだあんた?」 「この先に村があるみたいだから一度そこに行こうと思うんだ。武器を失っちゃったから、そこで必要なものを集められそうだからね」 あるかわからないけど、と付け足して彰はその場を去ろうとした。 「そうか。なら俺も一度戻るとするかな。もしかしたら長森たちもいるかもしれないし」 「えっ? い…いいよ。1人でいける」 彰はこれ以上浩平に自分に関わってほしくなかった。 だが、当の浩平はというと 「いいじゃねーか。それにあんた、その腕まだ動かせないんだろ? だったら、敵に遭遇した時不利にならないように2人のほうが少しは安心じゃないか。ほら、行こうぜ下手したら敵が来かもしれない」 そう言って彰の尻をバンと叩くと浩平は歩きだした。 「……はぁ」 こいつにはいろんな意味でかなわない。彰はそう思うと溜め息をついた。 「――そういや自己紹介まだだったな。俺は折原浩平だ。あんたは?」 「―――七瀬彰」 折原浩平 【所持品:だんご大家族(残り100人)、日本酒(残りおよそ3分の2)、ほか支給品一式】 【状態:健康。鎌石村へ移動中】 七瀬彰 【所持品:武器以外の支給品一式】 【状態:右腕に負傷。鎌石村へ移動中】 【時間:1日目2時30分ごろ】 【場所:D−03】 - BACK