私は今浜辺を走っています。 そして私の後ろには、男の人が声をかけながらついてきます。 波が爽やかな音を立て、海が陽光できらきらと反射して、とても綺麗です。 何も知らない人が見たら、ロマンチックなワンシーンだと思いますよね? 確かにそうかもしれません。 …男の人が、カッターを振りまわしながら鬼の形相で追いかけてきていることを除けば。 「くそっ、しぶとい女だ! さっさと観念しろ!」 「殺されると分かって、わざわざ止まる人間はいないでしょー!」 地獄の追いかけっこは、まだまだ続いている。一体、いつまで続くのかなぁ。それにしてもこの岸田という男、しつこいったらありゃしない。きっと女の子には絶対にモテないタイプだと思うんよ、うん。 しかぁーししかしこの私、花梨ちゃん様は伊達にミステリ研の会長を務めてはいないんよ! 教師から逃げるための…いやいや日々のUMA捜索活動の為の脚力はそこらへんの女とは違うっ! とにかく、助けてくれそうな人のところまで逃げきれれば… と思ったところで、私の目の前に誰かが現れた。や、やった、ようやく助けを呼べるんよ! 「そっ、そこの人―! おねがーい、追われているんよ…?」 その人はこちらの姿を確認したかと思うと、おもむろにポケットから何か黒いボールみたいなのを取り出した。へっ? あれって、手榴弾に似てなくも…ないよね? ゆったりとした動作のまま、安全ピンを引きぬいて…って、この人もなのーーっ!? 後ろからは変態強姦魔で切り裂き魔の岸田。前からは爆弾魔で見た目美少年系の少年A。 「わわわわっ、こ、これっていわゆる、『前門のべんとら、後門の狼男』って事態!? 花梨ちん、だぶるぴんちっ!」 どこかの誰かの真似をしてみても事態が好転するはずはないって。…しからば! 道なりに逃げるルートは諦め、林の中へと逃げ込む。直後、私の横方向から爆音が聞こえた。 グァァァァァン! 危ない危ない。もう少し早く投げられていたら間違い無く爆発に巻きこまれていたんよ、うん。 「けど、これであの変態切り裂き強姦男も振りきれ…」 「た訳ねぇだろうが! くくく、俺はしつこいんでな!」 「ひぇえぇぇっ!?」 まだついて来ていた。林に逃げこんだのはいいけど、凹凸が多い分、体力の消費も早くなる。脚力はあっても、花梨ちゃんの体力は普通のおなご同然なのです。 「こっちも混ぜてくれないかなぁ? 椋さんへのみやげ話、もっと欲しいんだよね」 「わぁあっ、爆弾マニアまでっ!」 敵が二人になってしまった。ううっ、どうして私ってば、いつもこんな役どころなんだろう。 必死に逃げるものの、敵との距離が徐々に縮まってきた。い、息も、ちょっとやばいかもっ… 「はぁ…はぁ…だ、誰でもいいからっ、た、助けてぇ〜…助けてくれたらっ、私、UMAだけじゃなくて神様も信じるんよ〜!」 「ダッたら、体勢を低くすルんだナ!」 いきなり聞こえてきた声。ひょ、ひょっとして、かみさま!? 私はにべもなく体勢を低く保った。直後、私の頭をパンが飛んでいった。…パン? ボンボン、ボンッ! 漫画みたいな音がしたかと思うと白い煙がモクモクと辺りを包んだ。 「ゲホ、ゲホッ、な、何だこれは!…む、小麦粉の味」 「あはは、真っ白だねー。何も見えないや」 どうやら煙幕みたいなもののようだ。私が感心していると、不意に横から手を引っ張られた。 「何してるんや! ボサッとしとらんではようこっちきい!」 私を引っ張る、謎の委員長風メガネ。私はなされるがままその人に引っ張られていった。 「フウ…取り敢えず撒いたようダナ。お嬢さん、オレっちに感謝しろヨ」 私を助けてくれた神様は愉快な頭をした黒人の人だった。 「まったく、あんたのお人好しにも程があるで。追われているとは言え、見ず知らずの人間を助けるなんてな。…ま、その手伝いをする私も私やけどな」 私と同じ制服の女の人が、自嘲気味に笑う。…うーん、学校でも見た事がないなぁ。まぁ、単に学年が違ったりするだけかもしれないけど。 話を聞いたところ、黒人の人、エディさんがこの支給品の粉塵パンをどうしようか思案していたところ、メガネの人、保科智子さんがやってきた。 そのまま二人は戦意がないことを確認し合い、取り敢えずは二人で行動しようとしたところ、例の爆音を聞いたらしい。何事かと行ってみたところ、私が追われていたのでエディさんは保科さんの制止を振り切って私を助けてくれたらしい。本人いわく、 「追われている女を救い出すのは、男の役目だからナ」 とのこと。そのお陰で、私は助かったのでありがたやありがたやである。 「ともかく、これでひとまずは安心やな。私とエディはこのまま二人で人探しをするつもりやけど、あんたはどうする?」 「んー…一緒に行動してた人はいるけど、バラバラになっちゃったからね。その人を探そうと思うけど、私も一緒に行かせてもらっていいかな? 一人より、仲間といたほうが安全だと思うんよ」 「ふぅん。で、その人はなんて言うんや?」 「ええっと、確か…十波由真っていうんだけど」 「UMA? このゲームにはそんなモンもいるのカ?」 「アホ。UMAじゃなくて、ゆま、や」 うん、と返事するとエディさんは感心したように頷いた。 「流石関西人。ツッコミが上手いナ」 「ドアホ! 関西じゃなくて、神戸出身や」 すっかり名コンビだった。 「…取り敢えず、この近辺からは離れよか。まだ例の岸田っちゅう奴がおるかもしれへんからな」 「そうだナ。それじゃ、まずは西へ向かうカ」 「ちっ、この俺が見失うとはな。しかもあの爆弾のガキもどっかにいっちまったしな。仕方がない、もうすこしマシな得物を調達するとするか。まずは、この先の村に向かうか」 まだまだ、パーティは始まったばかりなんだからな…くくく。 「ちぇ、結局お土産はできなかったなぁ。ヘンな男の人も見失っちゃうし。まあいっか。なんとかなるでしょ」 まだまだ、お祭りは始まったばかりだもんね、ふふ。 『笹森花梨(048)』 【時間:1日目午後一時ごろ】 【場所:C−2、森林帯】 【持ち物:特殊警棒(ランダムアイテム)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)】 【状態:少し疲労が残る、エディ達と行動、由真を探す】 『エディ(010)』 【時間:1日目午後一時ごろ】 【場所:C−2、森林帯】 【所持品:支給品一式、大量の古河パン(約27個ほど)】 【状態:健康、知り合いを探す】 『保科智子(096)』 【時間:1日目午後一時ごろ】 【場所:C−2、森林帯】 【所持品:支給品一式、武器は不明】 【状態:健康、知り合いを探す】 『岸田洋一』 【花梨を見失う、武器の探索を開始。C−3の鎌石村の方角へ向かう。(現地点はC−2)】 『柊勝平(081)』 【時間:1日目午後1時ごろ】 【場所:C−2、再び鎌石村の方向へ歩く】 【所持品:手榴弾二つ。首輪。他支給品一式】 【状態:普通。人が集まりそうな場所へ移動】 - BACK