杞憂




 長瀬祐介は、柏木初音と共に歩いていた。
 時を遡ること一時間。
 悲鳴に駆けつけた祐介の元にいたのは、泣きじゃくる初音と横たわる橘敬介だった。
 困惑する祐介だったが、涙交じりの初音の説明から、大体の自体を把握した。
 初音は敬介を死んだものと勘違いしたようだが、祐介が頚部から脈を取ると、まだ生きていることが判明した。恐らくは、なにか麻酔銃のようなもので昏倒したのだろうと思われる。
 そして、二人で敬介が目覚めるのを待つことになった。

 祐介は放って置くべきだと訴えたのだが、初音がそれを拒否したためである。
 折れたのは結局、祐介のほうだった。こんな小さな少女を放って置くことは許されないだろう。
 
 被害者が次の瞬間には加害者に回るかもしれないのだ。……鋸を手に警戒する祐介。
 しかし祐介の心配は全て杞憂に終わったのだった。



 目覚めた敬介を交えた3人は自己紹介の後、これからのことを話し合った。
 敬介は大切な人を探すといい、初音は姉達を探すという。
 三人で行動をした方がいい、と訴えた祐介だが、敬介はそれを断り、一人この場を去った。
 彼なりに、なにか考えがあってのことだろう、と祐介はあえて咎めなかった。
 ただ願うのは、彼の無事。
 別れる間際、祐介は彼にある武器を手渡していた。
 敬介の支給品は花火セット。とても護身にはならないだろう、と祐介は支給されたうちの一つ――トンカチを彼に手渡した。
 敬介はすまない、と頭を下げ、大事そうに其れを受け取ると姿を消した。
 残された二人は自然、行動を共にすることになる。
 
 その道すがら、祐介は初音に尋ねた。
「そういえば、初音ちゃんの武器は?」
「私は……これ」
 そういって彼女がデイバッグから取り出したのは、大ぶりの拳銃だった。
 銀の銃身と、黒のグリップ。まさに『重厚』。
 この銃はコルト・パイソン(6インチタイプ)である。
 ――俗に、拳銃のロールスロイス。
 全長291MM、銃身152MM、重量1150g。口径は.357マグナム、装弾数は6発。



「……祐介おにいちゃん、これ使って」
「え、……いいの?」
「うん、私……こんなの使えないから」
「……わかった。 じゃぁ代わりにこれを」
 祐介はそれを受け取る代わりに、鋸を初音に渡した。
「で、でも私こんな……」
「持っているだけでいいから。 護身にはなる」
「う、うん……」
 恐々と、初音は鋸を受け取る。
 祐介自身、拳銃の扱いなど素人だが、初音に持たせるよりはいいかもしれない、と考えた。
 実際、初音は人を傷つけられるような人間ではないことを、既に祐介は知るに至っている。

(こんな優しい子まで……なんてことだ)
 祐介は、主催者への苛立ちを募らせた。
 同時に、彼女を守って見せる、という強い責任感が芽生える。
 武器を使わないことに越したことはない。だがきっとそうも言っていられない。
 敬介を襲った人間のように、もう何人かは確実にゲームにのっているのだ。
 もしそいつらと出くわしたら……。その光景を想像するとぞくり、と祐介は震える。
 手に持つ銀色の銃は、鈍く重い。それは同時に、命の重みのようでもあった。
(僕はこれで……)
「初音ちゃん」
「え……?」
「僕は……君を守るよ。 絶対に」
「……ありがとう」
(それはあの頃のように……)

初音の姉、そして親戚のお兄ちゃんだという柏木耕一の4人を求めて。
――目指すは、氷川村。




 長瀬祐介
【時間:13:20】
【持ち物:コルト・パイソン&弾数25(内装弾6)&キリ&支給品一式】
【場所:H-07】
【状況:柏木初音と行動。氷川村を目指す(初音を守る)】
 ※橘敬介にトンカチを渡す/初音から拳銃を受け取る/初音に鋸を渡す

 柏木初音
【時間:13:20】
【持ち物:鋸&支給品一式】
【場所:H-07(※初音のスタート地点はS7焼場)】
【状況:姉達を探しに、祐介と共に氷川村を目指す】

 橘敬介
【時間:13:20】
【持ち物@:トンカチ】
【持ち物A花火セット(打ち上げ・爆竹・線香花火など色々&ライターと蝋燭)】
【持ち物B支給品一式】
【場所:H-08】
【状況:単独で観鈴を探す。出会った暁には、一緒に花火を…と思っている】
【状況A:麻酔の影響から、まだ少し頭がぼぅとしている】
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