島の全景を望む神塚山の頂上、そこに二人の少女がいた。 二人の顔は全くの相似、いわゆる一卵性双生児である。 双子の少女――姫百合珊瑚と姫百合瑠璃は眼下の光景を見下ろしていた。 「瑠璃ちゃん……ほんまにやるん?」 「さんちゃん……うちらが生き残るためにはこうするんしかないんや」 「貴明やいっちゃんが知ったらぷんぷんや……」 「うちは……さんちゃんのためやったら地獄に堕ちてもええ」 姫百合瑠璃は震える手で筒状の物体を握り締めた。 彼女は愛する姉のためにこれから手を汚そうとしていのだ。 もし今から行おうとする行為が貴明が知ったら彼はどう思うのだろうか (きっと怒って悲しむやろな……) 瑠璃に支給された武器は筒状の物体だった。 形としては小振りなバズーカ砲に見えなくともない 砲身にはトリガーもついてある。 が、その先端には弾頭が発射される穴は開いていない。 レンズ状の物体がはめ込まれていた。 「ここやったら誰にもにジャマされずに誘導できる、高いところやから障害物も関係あらへん」 「でも三発しか撃てないんやで……こんな強力な武器、あほな殺し合いさせる悪い人の家に撃ったほうがええやん……」 「さんちゃん、これはどこから飛んでくるんやと思う?」 「悪い人の家……」 「そや、これを主催者の家に向けて撃ったかて意味ないんや。やつらの狙いは殺し合い 自分ところに撃たれた場合の対策はキチンとしてあるはずや」 「そうやけど……」 瑠璃に支給された武器――いや、それはもはや兵器である。 携帯型レーザー誘導装置。 目標に向かってトリガーを引き、レーザーを照射させることによって 目標に対地ミサイルによる精密爆撃を行うものである。 着弾までレーザーを照射し続けなければ誘導できないのが欠点であるが 命中すれば民家程度なら簡単に全壊させるほどの威力ある。 珊瑚のレーダーに集中して表示される五つの光点、そして少し離れて表示されるもうひとつの光点。 場所にしてG−05地点、肉眼で小さく見える人影、そこにいる藤田浩之とその一行 そして彼らを狙う巳間良祐だとは瑠璃は知るよしもない。 「やめよう瑠璃ちゃん……もしあれが貴明やいっちゃんやったらどうすんねん……」 「ほな聞くで、さんちゃんは貴明やイルファじゃなかったらええんか?」 「それは――」 「さんちゃんに人殺しはさせへん、そんなんうちだけで十分や それにあいつら村に向かってる、村に入られたらここからじゃうまく誘導でけへん あいつらの姿がここから見えてるあいだがチャンスなんや」 瑠璃は強張る手でトリガーに手をかける。 命中すれば木っ端微塵。確実に即死だ。 (ホンマにやるんかうちは……やめるんやったら今のうちや……) ここなら誰の邪魔も入らない。 トリガーを引き、レーザーを照射し続ければ連中は死ぬ。 ここなら誰の邪魔も入らない、落ち着くんだ。 だが灯台もと暗し、瑠璃と珊瑚は極度の緊張と興奮のため 山頂に存在するもう一人の人物の存在に気がつかなかったのだった。 【85姫百合珊瑚】 【時間:午後四時】 【場所:神塚山の山頂 F−05】 【支給品:レーダー デイバック】 【状態:極度の緊張 できれば瑠璃を止めたい 少年の存在に気づかず】 【86姫百合瑠璃】 【時間:午後四時】 【場所:神塚山の山頂 F−05】 【支給品:携帯型レーザー誘導装置 弾数3 デイバック】 【状態:極度の緊張 G−5地点の浩之達を狙う 殺人に対する迷い 少年の存在に気づかず】 - BACK