「うぐぅぅ。怖いよぅ。」 月宮あゆ(68)は震えていた。ホテル跡の廃墟の傍に残る焼却炉の中で。 「さっきから銃声みたいなのはするし、待てとかなんとか言われるし。追いかけられるし。」 「しばらくここにいたら安全だよね。」 「それにしてもお腹がすいたなぁ。たいやき落ちてたりしないかなぁ。」 焼却炉から首を出してみる。でも外は安全とは思えなかった。 「まだ悲鳴が聞こえるよ・・・・ボクどうなちゃうの?」 「あ・・・・やばい!!」 誰かの足音が聞こえたような気がして慌てて焼却炉の中に引っ込む。 蓋がバタンと大きな音がして閉まった。 「うわ。真っ暗になっちゃった。」 暗さと怖さでがちがちと震えが走るのがわかった。 「でも....これがあるから。」 祐一に貰った天使の人形。真っ暗の中で懐にしまった人形を手で触る。 コン! 「――――――。」 誰かが外壁を叩いている音がして、あゆは息を詰めた。 コンコン。 「うぐぅ。ここには誰も居ませんよっ。」 ゴン。 今度はもっと大きい音がした。 ガチャガチャ。 扉をいじる音がする。 「神様。神様・・・・・。」 今にも扉を開けられたら・・・・どうしよう。 あゆは目を閉じた。 しかし、扉は開かなかった。扉をいじる音もしなくなった。 「・・・・助かった・・・の?」 あゆは扉を開けて出ようとした。 「あれ?おかしいな。開かない。」 中から一生懸命押すが扉が開かない。 「あれ?あれ?出られなくなっちゃったよ。」 その時、グィーンという機械音がしだした。 そして液体が強い勢いで内側に散布される。 「うわっ。何?.....これ石油?」 その瞬間。ボッという音と共に行きよいよく炎が吹き上がった。 「うわっ。」 炎はあっというまにあゆの衣服に燃え移る。 「うわわわ。熱い!熱いよっ。」 あゆは慌てて扉を叩いたり押したりしたがびくともしない。 炎が衣服の石油により、あゆの体に燃え移る。 慌てて服を脱ごうとしたが、もう焼却炉全体が燃えていてどこにも逃げ場が無い。 「ぎゃあああああああ。熱い!熱いよ!助けて!助けて祐一君。」 炎は髪の毛に燃え移る。炎を払おうにもその手足が燃えている。 火傷の火脹れがなんども破裂し、血が噴出してくるが炎は容赦なくあゆを包む。 「――――――。」 あゆは、もう声を上げる事もできず、酸素を求めて何度も咳き込む。 手足は火傷の痛みで痺れて何も感じなくなってきている。 唯一、あゆにできるのは顔を手で覆い、炎から顔を守る事だけだった。 「神様は・・・・・いなかったの・・・・?」 「神様が・・・いるのなら・・・ほんとうに最後の・・・・ボクの願いは・・」 あゆは最後に白くかすんだ景色を見た感じがした。 「もう・・・何も感じられない・・・・や。ばいばい・・・・祐一・・・く・・ん。」 焼却炉の中で人型の炎の塊が崩れて動かなくなった。 【時間:1日目午後4時頃】 【場所:E−04】 【所持品:不明】 【状態:焼死、犯人不明】 - BACK