ムティカパと篁




篁(063番)はスタート地点であった平瀬村分校跡を後にして1人道を堂々と進んでいた。
明らかに見るものからすれば無謀で隙だらけな行動に見えるが、彼の周辺は異様な空気で包まれていた。
これでは敵も近づきたくても近づけないだろう。

(ふむ……)
少し歩いたところで篁は自分の持っていたバッグに違和感を感じた。
手にした瞬間から異様に大きいとは思っていたが、やはり何か変だと彼は思った。

「開けてみればわかる話か……」
そう言うと彼はバッグを地面に下ろし、それを開帳した。

――刹那

グワッと勢い良くバッグから白い虎のような生物が飛び出した。
「―ぬ!?」
その生物―――ムティカパは次の瞬間には篁の喉を食いちぎらんと彼に飛びかかった。
それもかなりのスピードである。


―――普通の人間ならば次の瞬間には喉を噛み千切られお陀仏であっただろう。
しかし今回ばかりはムティカパも相手が悪かった。
なぜなら、たとえムティカパであっても理内の存在である以上、目の前に存在する理外の存在には敵うわけが無いからだ。
たとえそれが本来の力を封印されていてもだ。

「甘いわ……」
そう言うより早く、篁は人間とは思えぬスピードで蹴りを放ちムティカパの顎を蹴り飛ばした。
さすがのムティカパもこれには「ギャン!」と言う声をあげ空中を数秒間舞い、美しいアーチを描いて地面に落下した。
「ふむ……ただの虎ではないようだな。だが、所詮は理の内に存在するモノだ。私を滅ぼしたければ私と同等以上の存在でなければな……」
そう言いながら地面でグゥゥとうめき声を上げるムティカパに近づく。

「………しかし、なかなかの動きだった。本来の私ならば先ほどの一撃で既に貴様は物言わぬ存在になっていたところだ。
だが、生憎今はどうゆうわけか力が封印されてしまっていてな………このまま殺すのは惜しい」

篁はムティカパの目を見た。そこにはこの世で生きるものの生命(いのち)の輝きが映っているように見えた。

「―――どうだ? この篁に一度命を預けてみるつもりはないか?
ちょうどこの島には貴様を楽しませてくれるであろう力ある者たちが数多く集まっている。その者たちを私と共に打ち滅ぼしてみる気はないか?」
それは事実上篁に服従し、敵を殺せという意味である。無論敵とは篁以外の参加者119名。そしてこのゲームの主催者たちである。
「それとも、やはり獣は自身の力に驕れる気など無いか?」
「……………」
ムティカパはしばらく篁の目をじっと見ているだけであったが、
しばらくするとすっと立ち上がり――――高い空に向かって咆哮をあげた。

それはムティカパの了解を意味していたものだったのかはわからない。
しかし、篁はその咆哮を聞くと
「――ならば行くがいい。貴様が求める強き力を持つ者の所へ……」
と呟いた。
次の瞬間にはムティカパも言われたとおり(かどうかはわからないが)その場を後にし、数秒後には篁の視界からは見えなくなっていた。


(――フン。面白い奴よ……さて、まずはこの島にかけられている術を見極めさせてもらうとしようか………)
そう思うと篁もその場を去った。
今自分が最初にするべきことを果たすために。


―――その後、篁は伊吹風子の持っていたスペツナズナイフによる不幸な事故によりゲーム序盤早々から脱落することになる。
だが、彼の意思――『この島にいる力ある者たちを打ち滅ぼす』という目標は彼がこの島で唯一存在を許した森の王に受け継がれた―――のかもしれない。

ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォ………

――夕刻の空に1匹の獣の咆哮が響き渡る……




ムティカパ
 【状況:健康】
 【状態:常に移動しながら獲物を探している】
-


BACK