気だるさが身体中を襲う中、春原芽衣はゆっくりと目を開けた。 上空から刺す太陽の光が眩しく瞳を焼き付ける。 「お、目が覚めたかい?」 未だはっきりしない意識の中で自分を見つめる影が呼びかけてくるのが耳に届いた。 「……お兄ちゃん?」 靄がかかった視界の中、思わずそう呟いてしまう。 そこで急激に意識がはっきりとし、自分になにが起きたかを思い出した。 銃を突きつけられ、そして銃声。 目の前にいるのは見も知らぬ男性。 勢いよく身体を起こし、震えながら後ずさった。 パサッと額に載せてあったハンカチが地面に落ちる。 額に手を当てハンカチと、目の前の男を交互に見比べた。 水面に映っていた顔とは明らかに全然違う顔。 (違う……私を撃とうとしていた人じゃない) 芽衣の心情を察したのか、目の前の男、緒方英二は 彼らしくない笑顔を浮かべてゆっくりと言った。 「もう、大丈夫」 自己紹介を軽く済ませ、池のほとりに並んで座る芽衣と英二。 支給品のパンに芽衣がかぶりつきながら小さく口を動かす様を、英二は慈しむ様な目で見つめながら話を続ける。 「それじゃ君はお兄さんを探しているんだね」 「はい、……探してるというより会いたいと言う気持ちですが」 探しているというわけではなかった。 さっきまでの自分はただ幻想に助けを求め、逃げていただけだったのだから。 そんな自分に嫌気が差したのか芽衣は思わずうなだれてしまう。 落ち込む芽衣の顔を見て英二は、手に持ったペットボトルの中の水を飲み込みそれをしまうと、バックから地図を取り出す。 「ここからだと人が集まりそうで一番近いのは……鎌石村か。 でもさっきみたいにゲームに参加しちゃったのも同じことを考えるだろうね」 地図を見ながらブツブツと呟く。 その様子を不思議そうに芽衣は見つめる。 「黙ってても始まらない……か」 地図をたたむとおもむろに立ち上がり、ぐいっと背伸びをする。 「よし、それじゃ行こうか」 二人分のデイバックを担ぐと、英二は芽衣にそっと手を伸ばした。 「え?」 芽衣は英二の行動の意味がよくわからず、おもわず首を傾げてしまった。 「え?って。いやまさかここでバイバイなんて言うような男に見えたかい?」 英二は苦笑する。 「一緒に探そう、君のお兄さんを」 「い、いえ……でも迷惑じゃ?」 「ふでそりあうも他生の縁……って言うじゃない?」 言いながら英二は理奈のことを思い出していた。 うまく知り合いに会えていればいいんだが……と馴染みの顔を思い浮かべる。 だがもしも知り合いに会うことが出来ず、一人きりで、いやそれならまだましなほうだ。 もしかしたら先ほどのようなゲームに乗った人間に出くわしてしまうかもしれない。 (さっきのはたしか藤井君の友達だったよな……) 最初は気付かなかったが、思い返すと芽衣を襲おうとしていたのはスタジオそばの喫茶店でアルバイトをしている少年のことだと思い出した。 (そんな風には見えなかったんだが……) もしかしたら藤井君も?由綺も? 考えれば考えるだけ悪いイメージしか沸いてこない。 弥生君なら由綺を生き残らせるために平気で人を殺してるかも……冗談だよ。 ちょっと考えたら想像の弥生に怒られてしまい思わず頭をぽりぽりと掻いて謝った。 ともあれ、英二は何よりも早く理奈を見つけたかった。 そしてそれ以上に目の前の少女を兄に合わせてやりたいと思った。 差し出された英二の手を芽衣はそっと取って立ち上がると一言。 「自分の荷物、自分で持ちます」 もう一方の手でデイバックに手を伸ばす。 「いいからいいから」 だが芽衣の手をひょいとかわして、届かない反対側に担ぎなおした。 子ども扱いされていると感じて、芽衣が頬を膨らませた。 ただ無言で芽衣の頭をなでるとそのままポンと軽く叩くと、 照れて少し紅くなった頬を隠すようにそのままゆっくりと歩き出した。 その後を小走りで追いかける芽衣。 再び二人は並び、林の奥へと消えていった。 春原芽衣 【時間:一日目14:45】 【場所:高原池から鎌石村のほうへ】 【持ち物:支給品の中に入っていた食料と水を少し消費、他支給品】 【状況:多少疲れてはいるものの健康状態、春原陽平を探すため英二と行動中】 緒方英二 【時間:一日目14:45】 【場所:高原池から鎌石村のほうへ】 【持ち物:武器拳銃、支給品の中に入っていた食料と水を少し消費、他支給品】 【状況:緒方理奈・森川由綺・藤井冬弥・篠塚弥生の4名を探しつつ、芽衣の手伝いの為同行】 - BACK