道無き茂みをひたすらかき分ける少女がいた。 「はあっ、はあっ、はあっ…」 もし少女の通った後を上空から観察していたら、あてもなく迷走しているようにしかみえないだろう。 だが少女にとってはとにかく人気がないところにという行動原理に縛られているのでやむをえないのかもしれない。 「はあっ…はあっ…」 少女はずっと走り続けていたのだろう、息切れが激しい。 「はあっ……はあっ……」 やがて少女の背丈をゆうに超える茂みを抜けたあたりで少女の足が止まった。 「はあっはあっ……はあっ………だ、誰も……はあっ…いませんよね」 茂みを背にして辺りを見回す少女。 どうやら幸い周りには少女に危害を与えるような動きはないようだ。 「はあ…はあ…危なかった…」 少女が着ているセーラー服はあちこちが裂け、胸リボンの片輪が切れてしまっていた。 スカートは多くのひっかき傷等で大腿の辺りまで裂けており、見る角度によっては少女の下着が見えてしまいそうだ。 傍目から見れば強姦されたと勘違いされてもおかしくはない。 「…痛い」 少女は全身に痛みを感じ、その箇所に視線を置く。 どうやら服が切れたのと同時にその下の柔肌にまでひっかき傷を作ってしまったらしい。 少女の体のあちらこちらに血がにじんでいた。 服が切れ、肌が裂けるのをいとわないほどの恐怖から逃げて来たのだろうか。 「何とか…逃げ切れたみたいですけど」 制服同様、所々裂けつつも何とか形を保っている頭の黄色いリボンが揺れる。 「これからどうすればいいんでしょうか…」 名倉由依(075)はつぶやいた。 (あの人はひょっとしたら悪い人じゃなかったかも…目つきは悪いですけど) 茂みのそばで一休みしながら由依はそう考え始めていた。 周りに誰も敵意を持った者がいないからなのか、一時の間、走り続けたことで頭が冷えたのか。 「そうですよね。TVゲームの世界じゃないんですから、こんなことに乗る人なんていませんっ! こんなゲーム晴香さんと対戦するだけでおなか一杯ですよっ」 …それとも持ち前の明るさからなのだろうか、いずれにしても落ち着きを取り戻しているようだ。 「そうです。こんな思い…あのときだけで十分なんです。 そういえば、郁未さんや晴香さん、葉子さんもここに来ているんでしょうか…」 明るかった表情に一瞬陰が入る…が 「まあ悩んでいても仕方ありませんね、まずはお姉ちゃんと合流しましょう! それからですっ」 そう自分に言い聞かせ、由依はとりあえず姉:友里を探すために歩き出した。 !! 不意に歩いていた少女の動きが止まる。 「あ、ああ、あああ……」 先ほどまでの明るかった表情がみるみるうちに青ざめていく。 「そ、そんな…」 少女の視線の先には人が倒れ……否、真っ赤な血で辺りを染めている死体が転がっていた。 「嘘…」 少女の願いはわずか数時の間で打ち砕かれた。 だがこの時点で自分が置かれている現状を知ることができたのは幸運なのかもしれない。 ……ただ、この事実をあの少女が全て受け入れられるかはわからないが。 『名倉由依(075)』 【時間:1日目午後1時45分頃】 【場所:E−05】 【所持品:不明】 【状態:着衣に多くのひっかき傷、体中浅い切り傷、疲労気味。 とりあえずお姉ちゃん(友里)との合流を目指す。 理奈の死体を見て固まっている】 『緒方理奈(015)』 【時間:1日目午後1時45分頃】 【場所:E−05】 【所持品:不明】 【状態:死亡(049で既に死亡)】 - BACK