刑事の勘




 午後二時半  ―平瀬村住宅街―

【最初の支給品以外にも、武器・食料があるである筈である(食料の少なさ・武器(弾数)の貧困さ・主催者側の目的から推察)】
【そしてそれらは、爆破されたスタート地点(およびその付近にある建物=菅原神社など)以外の4施設・3村のいずれかにある筈である】

 上の二つはいずれも柳川の推察である。
 そして案の定というべきか、適当に入った家屋の台所で【出刃包丁】を発見した。
 柳川の推察は正しかったわけだ。 内心はもっと良い武器を期待していたのだが、ハンガーに比べれば何十倍もマシだろう。


 こうして新たな武器を手に入れた柳川祐也と柏木楓のコンビは人気の無い平瀬村の住宅街を歩いていた。幸いというべきか、この間、誰にも出会っていない。
 また不思議なことに、目に入る住居の全てが真新しく、まるでこのために新築されたようであった。そしてそれを裏付けるように、家内もまるで生活感が無かった。


 柳川は唐突に呟いた。 それは突然のようにも思えるが、実は柳川自身、ゲームスタート直後から抱いていた疑念でもあった。


「奴らは最後に『俺達にはいろいろと期待している』と言った。
        それは……俺達をなんらかの方法で監視していることの暗喩だと思う」
「……それって」
 楓はハッとする。
「十中八九、この首輪だろう」 
 柳川は軽く首輪をつまみ上げ、続けた。 
「そして、やつら――主催者側(恐らくは末端の兵士だろうが)は島の中(あるいは地下か近海上)に確実にいる」
 柳川は続ける。
「でなければ、不自然なんだ。爆破装置の起動可能距離にも限界はあるし、それにここは圏外であり、携帯電話などの遠隔操作は不可能」
「同様に首輪から送られる(と推察した)監視の映像もしくは音声の受信。これも島内に施設が無いとほぼ不可能なはず。 そう考えるのが自然だ」

「……」
 こくり、と楓が頷く。確かにそうだ。
「この考えはあくまでも推察の域を出ない。 ……がしかし、あながち間違ってはいないと思う」
「……」

 楓は神妙な面持ちで聞き入っていた。一方の柳川も、持論の展開に夢中だった。
――それが初動を遅らせる結果となった。

「そして奴らは俺らがそれに気づくのさえ承知で――」

柳川の言葉が途切れたかと思ったその刹那。
 パァン!パンッ!
「―ッ!?」
「きゃぁ!」
 二人の足元を二つ、何かが弾んだ。
 柳川は瞬時に楓の手を引き、路地裏に難を逃れたが――そこは行き止まり。逃げることは出来ない。
 カツ、カツ……。 足音が段々と近づいてくる。
「隠れても無駄。 ……次は外さないんだから」 
 おぞましい女の声に――二人は戦慄する。
 ゆっくりとしたその足取りは自信の表れか、はたまた二人の隠れた場所が行き止まりと知ってのことか。
(くそ、完全に俺の不注意だ……)
 柳川は自分を恨むと共に、外壁から僅かに顔を覗かせ、敵の姿を確認した。
 二人の先およそ15M――そこに、女はいた。
 綺麗な長い黒髪が、風に靡いている。 美しいはずのその顔は、いまは殺人鬼にしか見えない。
 ――そして手には89式小銃。 当たり武器。 

 とにかく、絶体絶命に間違いない。
「どうやらやるしかないみたいだぞ……、柏木の娘」
 楓のほうに振り向き、柳川が神妙に呟いた。
「ええ……」
 静かにそれぞれの武器を構える二人。参加者側との戦いは望むべきものではなかったが、そうも言っていられない様だ。

 女の足音が10M程先で止まる。
 ――『出て来い』という意味だろう。
「私が冬弥君以外の全員を殺して、冬弥君を助けてあげるの……私、頑張るね。冬弥君」


 ――虚ろなに笑い、銃を構える彼女は……
 
 森川由綺その人だった。




 柳川・楓・由綺
【時間:2:40】
【場所:平瀬村住宅街(G-02上部)】

 柳川祐也
【持ち物:出刃包丁・ハンガー・支給品一式】
【状況:緊迫】

 柏木楓
【持ち物:コルト・ディテクティブスペシャル(弾丸12・内6装填)・支給品一式】
【状況:緊迫】

森川由綺
【持ち物:89式小銃&89式小銃用銃剣・支給品一式】
【状況:冬弥以外の人間を抹殺することを決意】
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