崩壊の足音





 ズドォォォォン!!


 ホテルの前庭のど真ん中で先ほど二人が監禁にあっていた施設が爆発した。
「ひゃー、結構派手な音立てるねー」
柏木梓(017)はのんきな様子で前庭を見つめる。その様子を横から眺めるのは巳間晴香(105)
「調べてくるわ」
「調べてくるって何を?」
「もちろん、あの施設の爆破跡よ」
「……なんで?」
晴香はそういうと哀れみをこめた視線を梓に送る。
「あのねぇ、主催者はなんのためにあれを爆破したと思ってるの?」
「殺し合いをさせるためだろ。みんながあそこから動かなかったら困るじゃないか」
晴香は一瞬きょとんとした顔を浮かべた。
「ああ、そういう考えもあるわね」
「ほかにどういう考えがあるのさ」
「私はね、あの中に連中の痕跡が残ってると思う。その痕跡を隠すためにあの施設を爆破したって考えてるの」
「うーーん、でもそうだとしたら、なおさら痕跡なんか残さないよう爆破するんじゃない?」

「……そういわれると弱いけど、でもどんなことでも手かがりになるなら探すべきだと思う」
「……わかった。気をつけなよ。庭は見晴らしがいいんだから撃たれたりするかもしれないから」
「危険は承知のうえよ。でも一応二階から、人が来ないかどうか見てくれる?」
「わかった。まかせといて」
晴香は自分の支給品のボウガンを構えると、部屋から外に出て行く。
梓も続いて部屋を出て、階段を上った。手近な部屋に入り、外に目をやる。今のところ、人のいる気配はないし、姿も見えない。
「大丈夫そう?」
視界のしたから晴香がそう声をかけた
「うん。多分」
「オッケー。いってくる」
晴香は梓がはらはらするほど、ゆっくりとした足取りで施設の瓦礫に向かった。
 梓の原原が続くこと、二十分。ようやく、晴香が帰ってきた。
「ふぅ」
「なんで、あなたがため息つくのよ」
「いや、なんか気張りっぱなしで疲れちゃって」
「……先が思いやられるわね」
そういう晴香は言うだけあって平気そうな顔をしている。自分と同じ高校生とはとても思えない。
「まあ、いいわ。それでこれからどうする?」
と晴香は話題を振ってくる。
「え、あ、あぁ」
梓は考えた。自分がここにいるのは成り行き上、というか晴香に連れ込まれた、というほうが正しい。


 施設から出てきた自分にいきなりボウガンをつきつけ、一緒にゲームをぶち壊すことに協力しろと言い出し、とりあえず落ち着くためにホテルに連れ込まれたのだ。
 今まで、話してて悪いやつじゃないのはわかるが……。
 梓は持っていた名簿にちらりと視線を飛ばす。そこには自分とともに大事な家族の名前があった。
 耕一やちづねぇはあまり心配してなかった。心配するのが自然なのだろうが、どうしてもそういう感情が浮かばない。冗談抜きで殺しても死にそうのない連中とでも思っているのだろうか、自分は。
「それとも、無償の信頼ってやつ?」
「何気持ち悪いこと言ってるのよ」
「うるさいなぁ。ちょっとだまっててくれない」
問題は楓と初音だ。あの二人は無事なのだろうか。楓はまだ、こんな状況でも自分を失わずに生きてけそうだ。意外としぶといからな、あの子は。だが、初音はどうだろう。わけもわからずどこかで震えているのか。それとも気丈に振舞って私たちを探しているのか、もしくは……
「っ! 何を考えているんだ、私は!」
一瞬浮き上がってしまった初音の死のイメージを慌てて振り払う。
「私は、家族を探す。妹たちが心配なんだ」
「そう、わかったわ。じゃあとりあえず、この近場にある平瀬村に向かいましょう。人が多く集まるはずだわ。特に夜になれば」
「え、ちょ、ちょっと待って」
自分の言葉に従い、あっさりとを決める晴香に梓が慌ててしまう。
「なに?」
「え、あの、いいの。それで」
人が多い、ということはマーダーに当たる可能性も高いということだ。それは当然、晴香も承知しているだろう。

「構わないわよ。どのみち、ここから動きたいし、今晩の宿も確保したいし」
「あ、そ、そう」
「そんなに気を使わないでいいわよ。私が無理してあんたを連れ込んだんだしね。あんたの目的が私のと相反しない限り、協力するのは当然だわ」
「あ、えっと、悪いな、なんか」
「いいってば、じゃあ今日は徹底的にこの平瀬村の捜索をしましょ。あなたの家族はえー、全部で四人でしょ。なら一人は見つかるわよ。
ほかのプレイヤーに会えば、情報収集もできるしね。ほら、ぼやぼやしてないで、さっさと行くわよ」
「あ、わ、わかった」
梓はちらりと名簿に目をやる。
(まってなよ、みんな……って、ん?)
「ねぇ」
「ん?」
自分の問いかけに晴香が振り向く。
「あのさ、あんたの他にもう一人、巳間っていう人がいるけど、これ家族かなんかじゃないの?」
「義兄よ」
「探さなくていいの?」
その問いに、晴香が黙り込む。
(ひょっとしてまずいこと聞いた?)
梓のそんな考えが頭に浮かんぶと同時に、晴香は答えた。
「なんとなくだけど……会うのが怖いのよ」

「怖い?」
「ええ」
それっきり黙りこんで、晴香は歩き出す。慌てて梓が後ろからついてくる足音がする。
(良祐、あなたはまさかこのゲームに乗ったりしてないわよね)
昔の優しかった彼ならば、そんなことはないと断言できる。だがFARGOの施設であった彼ならどうだろうか。自信を持って断言はできない。
(いやなものね、家族さえ信じられないなんて)
自嘲気味にそうつぶやく。それを考えると梓がうらやましい。素直にそう思った。
 もし、もし万が一彼がゲームに乗るようならば、
(その時は、あなたを……殺すわ)




巳間晴香
【場所:ホテル跡(E-04)】
【時間:午後十二時半頃】
【持ち物:ボウガン、荷物一式】
【状態:異常なし】

柏木梓
【場所:ホテル跡(E-04)】
【時間:午後十二時半頃】
【持ち物:不明(次の書き手さんまかせ)】
【状態:異常なし】

補足
・今後の活動方針は夜まで平瀬村の捜索・調査
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