気がつけば『お約束』? −春原の受難−




「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
藤田浩之(089番)は支給品の折りたたみ式自転車に乗り、草むらという名の道なき道を爆走していた。
「今の場所は…G−03くらいか? 途中池があったから、間違いなさそうだが………」
左手に持ったままの地図をチラリと見ると浩之は自分が今いる場所を大まかに予想した。
「近くに村があるのか……人は多そうだけど、ゲームに乗った奴もいそうだよな………」
ここまで2度3度彼は銃声と思える音を聞いてきた。
おそらくゲームに乗り殺人を行っている者が既に何名か現れたのだろう。

「―――だけど。情報が集めやすいといえば集めやすいよな。RPGでも基本的な情報は町や村で集まるもんだしな」
そう自分に言い聞かせると建物を探すためペダルをこぐスピードを上げる。

やがて、草むらの先に道が見えてきた。
「よぉし、草むらを抜けたぜ!」
と勢い良く道に飛び出したのはいいのだが……

ドォン!

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「る?」
「あ……」
偶然そこを通りかかっていた春原陽平(058番)と衝突してしまった。
無論、吹っ飛んだのは春原である。軽く1メートルくらいは吹っ飛んだだろうか。

「だ…大丈夫か?」
「………」
返事が無い。
「死んだかうーへい。大口を叩いた割には哀れな奴だ」
「……って、少し気絶していただけで勝手に殺さないでもらえますかねえ!?」
だが、ルーシー・マリア・ミソラ(るーこ・きれいなそら。120番。以下るーこ)の罵声を聞いた瞬間見事復活した。(そのあたりだけは)さすがは彼である。


「そうか。お前たちも知り合いを探しているのか」
「その通りだ。うーたちが集まりそうな場所は大体は把握しているぞ」
「……ところで……その『うー』ってのは本当になんなんだ?」
「それはあまり聞かないほうがいいよ。最終的には損するから……」
そう。実は春原もここまでの間るーこに『るー』と『うー』について説明をしてもらったのだが、
るーこの説明では最終的に「何がなんだかさっぱりわからない」という結論に到達してしまったのだ。
そのため、多分『るー』が1人称で『うー』が2人称みたいなものなんだろうということで納得しておいた。

「失礼だぞ、うーへい。るーと言うものはだな………る?」
「ん? どうした?」
「……誰か来るぞ」
「ひぃぃぃ! またっすかあ!!」
「うるさいぞ、うーへい。今度こそ死にたいのか?」
「そ…それはいやだけどさあ………」
「おい。そんなこと言っている場合じゃなさそうだぜ。どんどん近づいてくる………」
一度草むらに入り、3人は体制を低くする。
耳をすませると、確かにガサガサという草をかき分ける音が聞こえてきた。
万一に備え、春原はポケットからスタンガンを。るーこはIMI マイクロUZIとその予備カートリッジを取り出した。

音が近づいてくるにつれて3人の間には緊張が高まる。

――ガサガサガサ
(どうやら数は2人、もしくは数人………)

――ガサガサガサガサガサ
(さぁ……)

――ガサガサガサガサガサガサガサ
(誰が来るんだ………!)

そして――ついに音の主たちはその姿を現した。


「確かこのあたりから男の子の悲鳴が聞こえた気がするんだけど…………」
「雪ちゃん。やっぱり危ないから校舎に戻ったほうが……」
深山雪見(109番)。川名みさき(029番)。彼女たちは先ほど聞こえた男の子の悲鳴を追ってここまでやって来た。
島を脱出するために自分たちと同じくゲームに乗らない同志たちを集めるためだ。
「何言ってるの。1人でも多くの同志たちと合流したほうが脱出の希望も膨らむって者でしょ?
それに…もしかしたら愛しの浩平くんかもしれないわよ?」
「ゆ…雪ちゃん!」

「………今の聞いたかい?」
「ああ」
「あのうーたちは島を脱出すると言っていたな」
「あの子たち、僕らと目的は最終的には同じじゃないかな?」
「そうだな。それなら話は早い……」

「いないわねえ…」
「雪ちゃん。きっとその子ももう別の場所に移動しちゃったんだよ。だから私たちも……」
「るー!」
「うわあ!」
突如みさきの近くにるーこが勢い良く飛び出した。

「みさき!?」
敵の奇襲と思った雪見はすぐさま親友の方へ振り返る。
しかし、現れたのは敵ではない。むしろ味方である。
「あ…すいません。驚かせちゃって……」
るーこに続いてゆっくりと春原と浩之が顔を出した。
「るーこ。少しは普通に顔を出せ。その人驚いてるだろ」
「え? え?」
突然の浩之たちの出現に雪見とみさきは多少混乱してしまったようだ。


「じゃあ貴方たちも?」
「ああ。俺たちは今は知り合いを探しているんだ」
「もちろん最終的にはこの島を脱出するつもりだよ」
「したがってるーたちはうーたちと行動を共にするべきだと決断した」
「雪ちゃんよかったね。お友達が一気に3人も増えたよ」
「あ…あの……」
「みさき、そっちは藤田くん」
「あっ。ごめん」
(そうか…この人目が………)
浩之たちは当初からみさきはどこか変だと思っていたが、その違和感の正体に気がついた。
彼女は盲目なのだ。
そのハンデはこの島においてはまさに絶望的なものだろう。
おそらく雪見がいなければ今頃彼女は………そう思っただけで恐ろしかった。

「とにかく。今は少しでも情報が欲しいんだ」
「それなら校舎の近くにある村に行ってみたらどうかな?」
「俺も最初そうしようと思っていたんだ。でも……」
「人がいる確率は高そうだけど、敵に遭遇する確率も高いだろうねえ……」
「大丈夫よ。こっちは5人。それに私たちの支給品もあるから少しは安全でしょ?」
そう言って雪見は自分とみさきの支給品を見せる。
SIG P232が1丁とスタングレネードが3つ。確かに支給品としては悪くない。いや、むしろ良い。
「おお。これは凄いな」
「確かに、これなら少しは安全だね」
「じゃあ暗くなる前に行こうぜ。もう夕方だ」
浩之が指差す方へ全員が目を向け空を見上げる。確かに。空は夕焼け空で赤くなっていた。
「今日の夕焼けは何点かな?」
みさきがぽつりと普段言っていた言葉を呟いた。残念ながら、その言葉は浩之たちには聞こえなかった。


浩之たちが村へ向かって歩いていくのを巳間良祐(106番)は草むらに身を隠して見つめていた。
(まったく。どいつもこいつも夢ばかり見る………)
先ほど殺した2人の少女といい、今の5人といいなぜゲームに勝つことに興味を示さないのか、良祐は疑問に思っていた。
「今この世界には勝者と敗者しか存在できないというのに……」
弱肉強食――強いものが生き残り、弱いものが死ぬ。
ヒトという種が生まれる以前、はるか古より存在する自然界の摂理が何故人間にはわからないのだろう、と思いながら彼は自身の凶器をチェックした。
彼の支給品、ベネリ M3の残弾は残り5発。5人殺すとなると1人を1発で仕留める必要がある。
(まあ、隙を突いて1人ずつ始末していけば問題ないか。いざとなればあいつらの武器を奪うだけだ)
良祐は立ち上がるとゆっくりと浩之たちの後を追った。
既に浩之たちの姿は見えないが、彼らの行き先はすぐそこの村だ。すぐに追いつくだろう。




 【時間:1日目15時50分】
 【備考:雪見とみさきのスタート地点は平瀬村分校跡】
藤田浩之
 【所持品:折りたたみ式自転車、他支給品一式(ただし、ここまで来る間に水を少し消費)】
 【状態:普通。知り合い・同志を探しに平瀬村へ移動中】
春原陽平
 【所持品:スタンガン、他支給品一式(ただし、ここまで来る間に水を少し消費)】
 【状態:(多分)普通】
ルーシー・マリア・ミソラ(るーこ・きれいなそら)
 【所持品:IMI マイクロUZI(残り30発)と予備カートリッジ(30発入り×5)、他支給品一式】
 【状態:普通。知り合い・同志を探しに平瀬村へ移動中】
川名みさき
 【所持品:スタングレネード(×3)、他支給品一式】
 【状態:普通。知り合い・同志を探しに平瀬村へ移動中】
深山雪見
 【所持品:SIG P232(残り7発)、他支給品一式】
 【状態:普通。知り合い・同志を探しに平瀬村へ移動中】
巳間良祐
 【所持品:ベネリ M3(残り5発)、他支給品一式、草壁優季のバッグ】
 【状態:普通。ゲームに乗っている。浩之たちを追う】

 【備考:雪見とみさきのスタート地点は平瀬村分校跡。るーこは浩之は「うーひろ」、雪見は「うーゆき」、みさきは「うーさき」と呼ぶ。SIG P232は本来はみさきの支給品で、雪見と合流後彼女のスタングレネードと交換した】
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