「くくく…さぁ、どちらから相手をしてやろうか? どっちも生きの良さそうなお嬢さん方だ。一発犯ってから殺してやろう。いや、屍姦も悪く無いかもなぁ」 にたにたと気持ちの悪い笑みを浮かべて近づいてくる岸田。こちらが大した事が無さそうな武器だからなのか、余裕綽々だった。 花梨はちらりと由真の方を見やる。警棒。唯一の武器だが、女の身ではリーチも腕力も違う。…何より、相手はこの手の状況に明らかに手慣れている。倒す事はおろか、二人一緒に逃げる事さえ困難だ。 …しかし、花梨も黙っていたわけではない。岸田が回りこむ直前、とっさに砂を握り締めていた。当然、相手はこの事に気付いてない。 「さぁて、どちらにしようかな? 天の神様の言う通り、ってね」 カッターをちらつかせ、一歩ずつ迫る岸田。やがて、カッターの刃が花梨のほうへ向く。 「決めた。まずはそっちの変な髪飾りのお嬢ちゃんからだ!」 右腕を大きく振りかざす岸田。花梨はその一瞬を見逃さなかった。 「くらえっ、この変態っ!」 投げつけられた砂は見事にクリーンヒット。思わず岸田が目を覆う。 「由真っ、今なんよ! 二手に分かれてっ」 「えっ…あ、ああ…うん!」 弾かれたように、由真が走り出す。花梨は左に。由真は右に。荷物は置いてけぼりになるが、そんなことに構っている場合ではなかった。 「このっ…雌豚がァ!」 カッターを振りまわすが、当たるはずもない。岸田の視力が回復しきらないうちに、二人は十数歩の距離をつけた。この分では、岸田が両方を仕留めることは不可能だった。 「ちっ…だが、あっちの雌豚だけは許さん!」 由真を諦め、花梨を追跡する岸田。この事に慌てたのは花梨。 「えええっ!? あ、諦めてくれないのっ? うわ〜ん、花梨ちゃん、大ピンチなんよ〜っ!由真ーっ、代わってぇー!」 「無茶言わないでよーーーっ!」 遥か遠くから聞こえる由真の声。律儀だった。 「ふん、少し遅れをとったが所詮は男と女だ。すぐに追いついて殺してやる」 「ひえぇぇぇ、だ、誰かっ、へるぷみー!なんよ!」 十波由真 【時間:12:30】 【場所:D-01の海岸。香里、あかり(032話参照)の方角へ逃走】 【持ち物:ただの双眼鏡(ランダムアイテム)】 【状況:岸田から逃走中。体力はまだ有り。距離はかなり離れている】 笹森花梨 【時間:12:30】 【場所:D-01の海岸。C−3の鎌石村の方角へ逃走】 【持ち物:特殊警棒(ランダムアイテム)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)】 【状況:岸田から逃走中。体力はまだ有り。距離は割と離れている】 岸田洋一 【岸田:装備品はカッターナイフ。花梨を追跡。体力は十分】 【備考:由真と花梨の荷物は放置】 - BACK