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山頂の形而上者



 少年(055)は神塚山の頂上にいた。そろそろ夕日が赤くなり始めている。西の空の色がゆっくりと蒼から紅に移り変わる。
 山頂からは島の全景がほぼ見渡せる。
「ずいぶんと便利な場所を作ったものだね」
と、ひとりごちるとその場に腰を下ろした。風が気持ちいい。
 ずっとその心地よさを堪能してもよかったが、僕は僕の仕事をしなければいけない。郁未のことも気になるけど、とりあえずそれも頭の隅においやる。
 ひょっとしたら彼女のほうから僕に気付くだろうか。
 それは十二分にありえる話だった。ここは見晴らしがいい場所だが同時にひどく目立つ。
 そうなったら、どうしよう。きっと郁未に見つかってしまったらひどく面倒なことになる。彼女のことだ。きっと僕が何をやっているのか聞き出すだろう。
 僕はうそが得意じゃないない。うそをついてることは彼女にはすぐにばれてしまう。彼女の知らないことを僕が知っているということを。
 このゲームの開かれた理由。
 主催者の真意と目的。
 そして、自分に課せられた役割。
 それを知ったら、彼女はどう反応するだろうか。そればかりはさっぱり予想がつかない。怒り出すだろうか、悲しむだろうか、馬鹿にするだろうか。その激情は僕にも向けられるのだろうか。
 会いたい。
 会いたくない。
 矛盾する二つの気持ちが少年の中でぶつかり合う。

 だが、意思がどうであろうと、自分はここから動くわけには行かない。ここから目に入る全てを目に入れ、可能な限り記憶していくこと。それが自分の使命。
 自分には何も許されていないのだ。
 殺すことも。
 殺されることも。
 助けることも。
 だますことも。
 動くことすら。
 感情を吐露することすら。
 心配することすら。
 何も許されてないのだ。
 少年は静かにそこにたたずむ。
 風が吹いた。銃声が聞こえる。また、誰かが死んだのだろうか。




 少年
【場所:神塚山山頂(F-05)】
【時間:午後四時】
【持ち物:不明(次の書き手さんまかせ)】
【状況:異常なし】
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