残される人たち




「はあ…」
伏見ゆかり(092番)はため息をつきながら歩いていた。
(まさか、こんなものが支給されちゃうなんて……)
そう思いながらバッグからあるものを取り出す。
それは、彼女に至急された品、日本酒だった。
無論、彼女は飲酒などする気もないし、する理由がなかった。
確認するとゆかりはすぐバッグに日本酒の一升瓶を戻す。

(こんなゲーム最初から乗る気はないけど、とんだ外れを引かされちゃったよ……
おそらく、私はそう長くはないだろうなあ………
宗一君、皐月ちゃん、みんな、その時はごめんね……)
ゆかりは半分あきらめた様子で道を歩いていく。


―――その時、ダダダダダ…という独特の音が聞こえたと思ったら、次の瞬間にはゆかりは蜂の巣と化していた。


(まずは1人……)
山田ミチル(112番)はゆかりの死を確認すると彼女のバッグを開く。
無論、出てきたのは一升瓶に入った日本酒だ。
「はずれか……」
そう呟くと、そのまま日本酒をその場に放置してその場を去った。


彼女は開始早々からこのゲームに乗った。
理由は特にない。ただ考えるのが面倒臭かったからあの時ウサギが言った通り殺し合いをしているだけにすぎない。
ただそれだけだ。決して10円玉をコイントスしたら裏が出たわけではない。
(このみ、よっち。今の私を見たらあなたたちはやっぱり私を見損なう? それとも…………)

ミチルが去った数分後、銃声を聞き付けた折原浩平(016番)がその場所へやって来た。
「誰か早速やりやがったな……」
ゆかりの死体を見ながら浩平は呟いた。
(蜂の巣か…機関銃の類だな………ん?)
その時、浩平は死体の近くに放置されていた日本酒に気がついた。
「……傷口の消毒薬の代わりにはなるかな?」
そう考えた彼はその日本酒をとりあえず拝借することにした。
「とれたら仇は取ってやる………だから今は迷わず逝け」
ゆかりの亡骸にそう投げ掛けると、彼もその場を後にした。


ゆかりの死は価値ある死でも、無駄死にでもない。
ただ、この島――そしてこの世界ではあたりまえな、ごく普通の死であった。
しかし、人の死はその理由・内容は関係なく時に残された人間の運命を大きく変えることがあるのも事実だ。
ミチルと浩平。この残された2人はこの先どのような運命にめぐり合うのだろうか。
その答えはまだ誰にもわからない。




092 伏見ゆかり 死亡

 山田ミチル
 【所持品:MG3(残り35発)、他支給品一式】
 【状態:普通。ゲームに乗る】

 折原浩平
 【所持品:だんご大家族(だんご残り100人)、日本酒(一升瓶)、他支給品一式】
 【状態:普通】

 【時間:1日目午後2時過ぎ】
 【場所:D−02】
 【その他】
・ゆかりの水などはバックとともにそのまま放置
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