ゲームの主




 氷川村のとある小さな一軒家。
 その一室で、天野美汐(005)は机に広がった支給品を無感情に眺めていた。
 
「……これでどうしろと?」

 机に散らばる一つを摘み上げて、溜め息を零す。
 美汐に支給されたのは、所謂盤上ゲームだ。手に持つのはチェスの駒。
 それを所在なさげに手の平で転がせ、机上に放る。
 正直、とても武器とは言い難い。そして、その盤上ゲームが手に余る理由の一つとしては種類の豊富さだ。
 チェスだけではない。有名所で将棋、囲碁、オセロ。果ては、二人用に留まらずマージャン、双六といった多人数ゲームまである始末。
 バックの奥を漁れば古今東西、様々なゲームがまだまだ出てきそうだ。
 こんな殺し合いの真っ只中で、和やかにゲームをしろというのか。いや、現にゲームは現在進行形で参加しているが、それとこれとは話が別だ。
 神経を逆撫でしているとしか思えないが、これは支給品でハズレに相当するということで納得する。

 そもそも美汐にとって、支給品の有無は実の所どうでもよかった。
 この殺し合いというゲームに乗るつもりはないからだ。 
 だからといって、脱出の方法や首輪の解除を模索しようとも思わないし、進んで人を探そうとも思わない。むしろ動くつもりはまったくない。
 仮にこの家にマーダーが侵入したとしても、抵抗せずに大人しく殺されていいとも思っている。
 二十四時間誰も死なずに首輪が爆発して死んでも、何事もなく数日を過ごし餓死してもいい。
 彼女は自身の生死にまったく興味がなかった。
 名簿を見た限り、知り合いの名前もいくらかあったが、差し当たって目を留めるほどではない。
 軽く流し読みして、いたんだこの人、程度にしか感じなかった。
 自分の生死に興味がないのだ。他人のことなど知ったことじゃない。
 ただ一つ、思うことがあるとしたら―――

(―――真琴……。あの子はあれでいて怖がりだから、早く死んで安眠した方が幸せですかね)

 それは決して安否ではなかった。
 ついでに、島の参加者達へがんばってくださいと、心の中で無責任なエールを送っておく。
 彼女は良い意味でも悪い意味でも達観していた。

 時折聞こえてくる銃声以外は、部屋の中は静かなものである。
 小さな美汐の息遣いと、時計の秒針の音を背景に、彼女は暇潰しにゲームの取扱説明書に目を通す。
 今も自分がこの家で寛いでいる最中、盛んに殺し合いが行われているが、心底どうでもいい。
 彼女は煩わしそうに変わらぬ窓の外を眺めた。

 時刻はまもなく夕刻。
 茜色の帳と共に、放送時間が差し迫る。




 『天野美汐(005)』
 【時間:放送前】
 【場所:I−07】
 【所持品:様々なボードゲーム・支給品一式】
 【状態:普通。ゲームには乗らないが、目的もない】
-


BACK