ベット




 坂上智代(046)はスタート地点からすぐの茂みに身を隠していた。
 智代はもちろん、こんなふざけたゲームに乗るつもりなど毛頭ない。どうにかしてこのゲームをぶち壊しにするつもりだった。
 だがそれを一人でやりきるのは困難だろう。協力者がほしかった。
 そこで智代は手っ取り早くこうしてスタート地点に身を隠し、出てくる参加者を仲間にしようとおもいたったのである。
 自分はかなり後半の出発だったが、まだ開いていない扉が一つだけあったのである。はたして自分が出てからすぐにドアは開いた。
 どうだろう、相手は信用できそうだろうか。
 出てきたのは女の子だった。制服に身をまとっていることと、背格好や雰囲気から言って自分と同い年だろう。
 少女は落ち着いていた。周りを一瞥すると自分のディパックの中身を確かめながら歩き出す。
 智代はその落ち着き振りが少し気になった。もっと取り乱しているほうが自然だと思う。声をかけるのをよすべきか?
「なぁ、ちょっといいか?」
 だが、智代は結局声をかけた。落ち着きぶりが確かに気になったが、それは自分が疑心暗鬼になりかけてるだけだ。
 そう言い聞かせた。それに、そんなふうにいちいちためらっていたら結局いろいろ理由をつけて誰も仲間にできない。そんな不安もあった。
「………」
相手は首だけまわしてこちらをだまって見つめた。みつあみが印象的な美少女だった。名は里村茜(050)。
「これからどうするつもりだ?」
「人を殺して帰ろうと思います」

茜はさらりととんでもないことを言う。これはさすがの智代も予想外だった。ぽかんと馬鹿みたいに茜の顔を見つめる。それから数瞬、茜の言葉を咀嚼するために時間を使い

、叫んだ。
「……どうしてだ、どうしてそんな簡単にそんなことを言える!」
「簡単に、ではありません。閉じ込められてりるあいだずっと考えて出した結論です」
目をつぶって悲しそうに反論する。それを見て少し落ち着いた智代はふとした違和感を覚え、その疑問を口にした。
「……ならなぜ、すぐに私を殺さない?」
「武器がこんなものでしたので」
そう言って相手がディパックから取り出したのはフォークだった。確かにそれで人を殺すのはちょっときつい。
「予定を変更する気はないか?」
「………」
再度無言。智代は畳み掛けるように説得を開始した。
「私はどうにかしてこのゲームをとめるつもりだ。お前の最終的な目的は殺すことじゃなくて帰ることだろう。私に協力しろ。
そうすればみんなで帰れる。お前だって人を殺さずに帰れるならそっちのほうがいいはずだ」
「……どうやってとめるつもりですか?」
「それはこれから考える」
「………」
「おい、無言で立ち去ろうとするな」
「嫌です」
無言で立ちさるな、という智代の言葉に従ったのかそれだけ言ってまた歩き始める。
「何が不満だ。何が。言ってみろ」
「そんな不確実な手には乗りたくありません」
「119人殺して帰るよりは現実的だ」
「………」
歩みが止まる。

「わかった。こうしよう」
智代はバックの中に手をいれ、自分の支給品である手斧を取り出し、取っ手を相手に向けた。
「とりあえず、私に協力して脱出する手段を一緒に探せ。失敗したらその時はこれで私の頭を割ってゲームにのればいい。どうだ?」
「………」
相手はまたも無言。沈黙は5秒ほど続いたが、智代にはそれがもっと長く感じられた。そして、
「わかりました。それで結構です」
茜は軽く目を閉じてそう言った。
「そうか、じゃあこれを」
「いえ、いりません」
だが、智代が差し出した斧を茜は拒んだ。
「なぜだ? 私はちゃんと約束は守るぞ。もし失敗したらおとなしく殺される」
「私の腕力ではそれで人の頭を勝ち割るのは無理ですから」
「む……」
その答えに今度は智代が口を詰まらせる。
「いいのか」
「かまいません。119人殺すよりはましですから」
「わかった。この斧は私が持っておく。だが、これでは私が約束を破ったようで嫌だ。だから、扱えそうな武器を手に入れたらすぐにお前に渡す。いいな」
「はい。ですが……」
「?」
「そろそろ爆発します。離れましょう」
そういって相手は10メートルほど先にある。白い建物を指差した。床下あたりから白い煙がもうもうと出ている。
 まずだっと茜が駆け出し、智代が後に続く。
「伏せろっ!」
 ごごーーんんっ!!
 爆発の規模は思ったより小さかった。
「そういえば、名前を言ってなかったな。私は坂上智代という。智代でいい。」
「里村茜です。私も茜でかまいません」
地面に寝転んだまま、二人はそう自己紹介をした。




坂上智代
【時間:12時】
【場所:スタート地点の岬(A-02)】
【持ち物:手斧】
【状態:健康】

里村茜
【時間:12時】
【場所:スタート地点の岬(A-02)】
【持ち物:フォーク】
【状態:健康】
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