ゴツ・・・ズサァッ!!! 「いたっ」 視界もままならない鬱蒼とした木々の中で、わたしはもう何度目の転倒をしただろうか? もはや時間の感覚がない。自分がどれだけ歩いているかもわからない。 休んでしまうと誰かに見つかってしまう気がして立ち止まる事も出来なかった。 しかし、緊張の中で歩き続けたために、体力の限界が来てしまっているようだ。 仕方なく周りを見渡し、極力人の通らないような木々の隙間を見つけ、身を隠す。 一体、なんでこんな事になっているのだろう? 気が付いたら奇妙な椅子に括り付けられ、ウサギから変な説明を受け、 こうして逃げ延びるように走り続けている。 もう制服も汚れきり、ところどころが破れ出している。 手足は擦り切れ、出血している場所もある。 人との接触を避けるために、わざと道無き道を進んだせいだ。 一度座ってしまうと、しばらくは立ち上がれない程の疲労感に包まれてしまった。 立ち上がれないままでは仕方が無いので、辺りの気配を伺いながら、自分の持ち物を見直す。 デイパックの中には単純なサバイバル用品と食料、名簿、 ・・・そして、デイパックの脇に添えられていた日本刀。 長さはおよそ1mくらいだろうか、柄に16弁の菊の紋があしらってある。 周りに人がいない事を確認しながら、名簿を読んでみる。 何人かの聞いたことのある名前と、そこに見たくなかった名前を発見する。 舞・・・祐一さん・・・2人も来てしまってるのね・・・。 ここで殺し合いをしろと、あのウサギの人形は言った。 殺し合い・・・人の生命を奪う事・・・わたしに出来るはずがない。 大事な人がいなくなる悲しみを知っているわたしが、何故人にそれを与える事が出来るだろうか! ここではそれがキレイ事だとしても、わたしにはそれは出来ない。 あ・・・あははーっ・・・悲しみと自虐に満ちた笑いと涙が込み上げてくる。 そうか、あの時死ねなかったわたしに、神様が死ぬ場面を与えてくれたのかもしれない。 自分の力で死ぬ事が出来なかったわたしに、一弥が呆れてしまっているのか・・・。 でも、ごめんね、一弥。今はまだ死ねないよ。 ここに舞と祐一さんが来ている以上は、まだ死ねない。 あの2人を助けなければならない。それまでは死ねない。 舞と祐一さんが幸せになってくれる事が今のわたしの願いだから。 出来る限り逃げ延びよう。逃げているうちに2人に会えるはずだ。 幸いにも、わたしのもらった武器は刀だ。わたしには使う事が出来なくても 剣道の真似事をしてた2人なら、わたし以上に有効に使えるだろう。 あの2人も殺し合いに参加するとは思えないけど、自衛のための手段として 武器は必要になるはずだ。 3人でなら、きっと生き延びる方法を見つけられる。 でも、どうしてもダメなら・・・その時はわたしの命を差し出そう。 一度は失っても構わないと思った命、それを2人のために使えるのなら・・・! そばに落ちていたロープを拾い、鍔と鞘にグルグル巻いて固定し、抜けないようにする。 これでもう、わたしにはこの刀は使えない。 それを背中に背負い、与えられた水で喉の渇きを潤すと、 少しは戻ってきた体力を元に静かに立ち上がり、歩き出す。 今は・・・逃げよう。この狂気の世界から。いつか2人と会うために・・・。 『倉田 佐祐理(036)』 【時間:1日目午後2時ごろ】 【場所:F−6、神塚山付近の森林帯】 【所持品:支給品一式(若干水を消費)、封印した菊一文字】 【状態:擦り傷等の軽い負傷と疲労、逃亡】 【備考:思考として、逃亡を繰り返しつつ、舞・祐一との合流を最優先に考える】 - BACK