どっきりぱーてぃー




現在地はD-01の海岸。時刻は、ちょうどお天道様が真上に上る頃――正午である。 
 綺麗な海岸が果てしなく広がり、見渡す限りの大海原に、ここが絶海の孤島であると痛感させられる。「もしかしたら、通りかかる船でもあるかもしれない……」という期待は儚く散ったわけである。
 本来ならば、思わず海に飛び込みたくなるところだが、このような状況ではそうも言っていられない。それに、後ろに広がる森林では、今も殺人が行われているのかもしれないのだ。
「ちょっと、なに、あれ……」
 そんな中支給武器である双眼鏡を覗き、辺りを見回す少女は怪訝な声を漏らした。
「ねぇどう思う?」
 十波由真(70)は、双眼鏡を覗きながら後ろを背中合わせに後方を警戒する相棒に尋ねた。
「そんなこと言われても、こっちからは見えないんよ」
「それもそうね、はい」
 立ち位置を変わり、今度は相棒が海を眺める。 その時に武器も交換する。
 代わりに由真が装備したのは、特殊警棒。アメリカ人の太った警部が持っているようなものを想像してもらいたい。
 人を殴れば、骨まで砕く威力を持っている代物だが、はっきりいって、他の参加者がどんな武器を持っているのかわからないこの状況では、頼りない武器の類になる。
 もし相手の装備が銃だった場合――考えたくはないが――、こちらは抵抗するまもなく、死ぬだろう。


さて、そんな折に海原の向こうに見つけた『なにか』。
「あれはきっとUMAなんよ!」
 双眼鏡を覗き込んだままの笹森花梨(48)は興奮気味に声を上げた。
「そんなわけないでしょーが。ちょっと代わりなさい」
 再び、役割交代。
「あれは鳥よ!」
「そんなわけないんよ! 鳥ならもっと空の高いところにいるはずなんよ。 でもあれは海面を移動してるんよ。 ちょっと代わって」
「あぁちょっとぉ!」
 再び役割交代。
「うーん……あれはムー大陸時代の失われた遺産なんよ」
「そんなわけないでしょーが。 はやく代わって」
「あぁんっ! もっと見たいのにぃ!」
 花梨の抗議虚しく、双眼鏡は三度由真の手に。
「……カモメ?」
「カモメも鳥なんよ馬鹿! 代わって!」
「あ、こらぁっ!」
 奪うように、双眼鏡は花梨へ。 後方警戒はどうした。
「……あれ?」 
「どうしたのよ」
 急にトーンを落とした花梨の声に、由真も落ち着きを取り戻す。
「さっきよりどんどん近づいてくるんよ、あれ」
「うそ!? ちょっと代わりなさい」
 由真はひったくるように双眼鏡を覗き込んだ。
「ほんとだ……どんどん近づいてくるわ」
「ね? ね?」
「鳥……じゃないし……鯨でもない……」
「なに? なに?」
「あれは…………船!」
「ふね!?」
 そう。こちらに近づいてくる謎の物体。 その正体は紛れもなく船であった。
 白い、二人乗り程度の小型船が、どんどんとこちらに近づいてくる。


「救助かもぉっ!?」
「……でも、そんな雰囲気じゃないわ」
 希望の声を上げる花梨と低いトーンで状況を伺う由真。
 どんどんと近づいてくる船は、一直線にこちらに向かってくる。
 しかし―― 一直線すぎる。
 船は操舵が利かないのか、猛スピードのままどんどんとこちらに迫る。距離は、もう目視で確認できるところまできている。

「……ちょっと、やばいんじゃない?」
「そうかも……」
 流石に危険を察知した二人は、慌ててその場を離れようとする。
 しかし、砂浜に足を取られ、うまく動けない。 
 船のエンジン音が煩く響く。
「はやく逃げなきゃ! 早く逃げなきゃ!」
「判ってるけどぉ!!」

 もう、距離はない。

ドォッゴッッッォォォォォォォッォーッッッッン!!!!!!

「きゃぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!!!」
「やぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!」


 十波由真・笹森花梨【死亡】

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「……ってなるところだったわね」
「うぅ……」
 なんとか難を逃れた二人は、後ろで無残な姿を晒す船に目をやった。
 船首は見る影をなくし、船体も半分ほどが損壊している。
 船は幸い(というか)近くの岩肌にぶつかり、二人には直接的被害が及ばなかった。
 船体が爆発していないのも幸運だ。もし燃料が引火でもしたら、間違いなく近くにいた二人は被害に巻き込まれていただろが、今のところその心配はなさそうだ。
 

「それにしても、なんなのよあの船は……っ!」
「ひどい目にあったんよ……」
 恨めしげに毒づく由真と涙目の花梨。
 目だけを海面から覗かせ、そんな二人の様子を伺う怪しげな男がいた。
 男は例の船の乗組員であり、衝突の寸前に身を投げ落命を免れていた。
(ちくしょーあの女ぁ。 操舵桿をぶち壊しやがって!死ぬところだったじゃねぇか!)
(散々犯してやったのに、まだあんな精神が残っていたなんてな……)
 男――岸田洋一は数十分前の光景を忌々しげに振り返った。
(あの牝豚ぁ!!)
 船の方――おそらく衝突の衝撃で即死となった女に――に目をやる。
(あれじゃぁ当分は足がないぞ……)
(いっちょ、あの女共に探りいれてみるか)
 岸田は、ゆっくりと海面から身を出した。
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「そうだったんですか、災難でしたね……」
「ええ、本当に参ってしまいましたよ」
 三人は砂浜に腰を下ろし、2対1の形で向き合っていた。
 いつもの偽善者モードで二人に近づき、手八丁口八丁で言いくるめた岸田は、由真の信頼を既に得ていた。一方の花梨は会話に参加することなく、怪訝な目で岸田を睨んでいる。
(なにか変なんよ、この男……)
「それにしても……殺人ゲーム、ですか?」
「……そうなんです」
「なんということだ……」
 ぉぉ!と天を仰ぐ岸田。(なんて面白そうなことじゃないか! 最高だ! こいつは最高だよ!)
「それで、ここで辺りを伺って……」
「近くに船が来ないか、と考えたわけですね?」
「はい。そこに……」
「私が来た、と」
「ええ」
「でも残念でしたね……あのとおり、船も壊れてしまいましたし……」
 わざとらしく、肩を落とす。 (時間さえあれば直せるがな……まずは、ここで楽しむか)
「本当にあの船、だめなんでしょうか?」
「ちょっと見てるんよ」
「あぁ!ちょっとちょっと!!それはやめてください!!」
 腰を上げようとする二人を慌てて制す岸田。


「……なにか?」
「……い、いえ、もし引火でもしたら危ないですから」
「あ、そうですね」
「それに、あれじゃぁもう駄目ですよ」
「そうですか……」
(いや、ちょっと待てよ)
 岸田はある趣向を思いついた。
(ふふっ、これは面白い幕のあげ方だ)
「やっぱり、ちょっと見てみましょうか、船」
「え、でも危ないんじゃ……?」
「いいからいいから……」
 不気味な(表面上は良い)笑顔を称えながら、岸田は二人を起こし、船へと連れて行った。
 ぼろぼろに壊れた船体に乗り込み、危険がないか確認(ふり)する。
「大丈夫です。どうぞ、こちらへ」
 手招く岸田に従って、二人も船に上がる。
「僕はちょっと船尾を見てみますから、二人は船室の方を確認してくれますか?」
「わかりました!」
「…………」
 素直に支持に従う由真と、相変わらず警戒心の強い花梨。
 しかし、次の瞬間、二人の表情は同一のものとなる。
 それは……恐怖。
 二人の目の前に広がった光景。二人が見た悪夢。
 それは、船室の中央に仰向けに倒れた全裸の女だった。
 頭からは夥しい量の血が溢れている。明らかに、死んでいる。
 二人の背筋に、冷たいものが伝った。


「――見たんだな」
 すぐ後ろでした『ぞくっ』とする恐ろしい声に、二人はぎょっと振り向く。
 そこには、先ほどまでの表情とは一変した悪鬼のような岸田の顔があった。
「……岸田さん、こ、これは……?」
 震える声で、由真が尋ねるも、岸田は好色そうな笑みを浮かべるのみだ。
「――由真、逃げるんよ!!」
 瞬時に状況を理解した花梨は由真の手を握り、駆け出そうとする……が、その前に岸田が立ちふさがる。
 そして、にやりと 厭な笑みを浮かべた。
「SURPRISE PARTY! 」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!」




十波由真
【時間:12:20】
【場所:D-01の海岸(「もし、明日地球が爆発するのなら」での場所に程近い )】 
【持ち物:ただの双眼鏡(ランダムアイテム)・他支給品】
【状況:笹森花梨と行動を共に。岸田から逃げる】
笹森花梨
【時間:12:20】
【場所:D-01の海岸(「もし、明日地球が爆発するのなら」での場所に程近い )】
【持ち物:特殊警棒(ランダムアイテム)他支給品・海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)】
【状況:十波由真と行動を共に。岸田から逃げる】
 花梨・由真のスタート地点は菅原神社

岸田洋一・船・女の状況
【岸田:ヒャッホウ!今日はついてるらしい! とゲームに乱入。装備品はカッターナイフ 】
【船:半壊。現在運航は不能。エンジン部は健在(機械工学に長けた人間・岸田なら、修理は可能?道具は船内に)】
【女:死亡】
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