「ふぅ……」 藤井冬弥(088番)は自身の安全を確認すると草陰に腰を下ろした。 スタートして1時間近く歩いていたが、運良く敵と思える者とも遭遇することなくここまで来れた。 (これも一応こいつのおかげなのかな?) そう思いながら自身の支給品であるH&K PSG−1を見た。 もともと狙撃用ライフルであるこの銃にはスコープが搭載されている。 それにより常に自身の行き先の安全を確認することが可能だったため、彼はここまで進むめたのだ。 (ここは林だ。特に目立つ行動さえ取らなければ敵に見つかることはないだろうけど…) 「誰かー!」 (ん?) ふと女の子の声が耳に入った。 (近くに誰かいるのか?) 冬弥は声がした方にH&K PSG−1を向け、スコープを覗き込んだ。 スコープには女の子と女子高生が映っていた。 見たところ車椅子が溝にはまってしまい立ち往生しているようだ。 おそらく先ほどの声からして、車椅子を溝から出すのに手伝ってくれる人を探しているのだろう。 (あらら…大変だな。しょうがない、俺がいってやるか……) スコープから目を離して2人を助けに行こうとした瞬間、もう1人の人影がスコープに映った。 (ん!?) もう一度スコープでよく見てみると、今度ははっきりともう1人の姿を捉えた。男だ。 物陰から女の子たちの様子をこっそりと見ている。 そして、当の2人は男の存在に気づいていない。 (まさか、殺す機会を伺っているのか!?) 嫌な予感がした。 (大変だ、急いで2人を助けないと………でも今俺が出て行ったら逆にやられてしまうかもしれない………) やがて、こうなったら仕方が無い、とH&K PSG−1を真剣に構えた。 ―――わざと彼女たちの近くに1回発砲し、狙われていると思い込ませ男をこの場から退かせる。もしくは女の子たちをこの場から逃がす。 彼なりに短い時間で考えた結果出た一番安全と思える方法だった。 トリガーを引こうとする指は震えていた。 (間違っても彼女たちには当たるなよ……) 短い沈黙が冬弥とその周辺を支配する。 (…………いけっ!) やがて決心した冬弥はトリガーをぐっと引いた。 銃声と同時に郁乃たちの近くの地面に弾が1発命中した。 「きゃっ!」 「て…敵!?」 (――なんだと!? まさか狙われている!?) 郁乃、七海、そして高槻の3人は冬弥の思い通りの反応をした。 (まずいな…狙撃の場合間違いなく俺の姿も敵に見られている………くっ。こうなったら俺らしくはないが仕方が無い………) 高槻は自身も思っている通り彼らしくもなく郁乃たちの元へ飛び出した。 無論、突然の高槻の出現に郁乃と七海は困惑した。 「えっ!?」 「だ…誰ですか?」 「そんなことはいい! 早くここから離れろ! 狙い撃ちされるぞ!」 高槻は車椅子の片輪を溝から引っこ抜くと郁乃と七海を連れその場から離脱した。 (…………あれ?) 1人その場に取り残された冬弥は思いもよらぬ結果に唖然とした。 どちらかが逃げるかではなく、両者が…それも一緒になって逃げていったのである。 (………もしかして、あの男最初から2人を襲う気なんてなかったのか?) 藤井冬弥 【時間:1日目14:20頃】 【場所:D−07】 【持ち物:H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、他基本セット一式】 【状況:肉体的、精神的にやや疲労】 小牧郁乃 【時間:1日目14:20頃】 【場所:D−07(離脱)】 【持ち物:支給アイテム不明、車椅子、他基本セット一式】 【状況:七海と共に高槻に連れられ離脱中。少し困惑中】 立田七海 【時間:1日目14:20頃】 【場所:D−07(離脱)】 【持ち物:支給アイテム不明、他基本セット一式】 【状況:郁乃と共に高槻に連れられ離脱中。少し困惑中】 高槻 【時間:1日目14:20頃】 【場所:D−07(離脱)】 【持ち物:熊のぬいぐるみ(やや大きめ)、他基本セット一式】 【状況:郁乃、七海を連れ離脱中。二人を連れ出した理由は不明(だが本人も何も考えていない可能性大)】 追記 ・冬弥のスタート地点はS3(F−09 無学寺) ・郁乃、七海のスタート地点はS10(D−06 鎌石小中学校) ・高槻のスタート地点はS6(I−10 琴ヶ崎灯台) - BACK