うたがわれるもの




「あれ?」
「ん? どうしたの、雄くん?」
「あそこにいるの貴明じゃねーか?」
灯台の最上階、近隣の景色が俯瞰できる場所、そこに向坂雄二(40番)と新城沙織(56番)はいた。
そしてその時、雄二は灯台からそれほど遠くない所…いや、むしろ近いところにやや小さな人影を二つ見つけた。
そのうちのひとつは姿や身体的特徴が彼の友人の河野貴明と瓜二つだった。
しかし、むこうはまだこちらに気がついていない。

「試しに呼んでみたら?」
沙織が雄二に言った。
「でも、別人でしかも敵だったらどうするんだよ?」
「その時は別にいいじゃない。どうせ最後まで生き残れるなんて思ってないんだし……
ただ死ぬのが今なのか、後なのかの違いでしょ?」
死ぬのは恐いけど、と付け足して沙織は答えた。
「そ…そうか……? よし、それなら………」
雄二はすぅと息を吸うと、人影の方へ叫んだ。

「おおーい、貴明ーーーっ!!」


「あれ?」
自分を呼ぶ声が聞こえた気がしたので、貴明は足を止めて振り返ってみた。
しかし、そこには誰もいない。
「どうしました?」
不思議そうにマルチは貴明に尋ねる。
「今雄二の…知り合いの声が聞こえた気がするんだけど………」
「えっ? 本当ですか!?」
「うん…」
貴明とマルチはまわりを軽く見回してみたが、雄二らしき者の姿は見えなかった。

「貴明ー。ここだ、ここだーー!
上。上ーっ!」

また叫び声がした。
今度は貴明にもマルチにもはっきりと声が聞こえた。
「た…貴明さん。今の!」
「うん。今度は確かに聞こえた。上………?」
貴明たちが目線を上へ上げると、近くの灯台から大袈裟に手を振る人の姿があった。
雄二だ。
「雄二!」


「いや〜貴明、無事でなによりだ!」
「そっちこそ!」
灯台の外、入り口付近で二人の少年は無事に再開を果たした。
もちろん、沙織とマルチも一緒である。
「ところで貴明…」
「なあ雄二…」
「この子は誰だ?」
「こちらの子は何者だ?」二人がほぼ同時に互いのパートナーとなった少女に目を止めて尋ねた。
「ああ、こいつは…」
「私は新城沙織。よろしくね、河野貴明くん。
……え〜と、呼ぶときは貴くんでいいかな?」
「ああ、かまわないよ。普段からこのみ……幼なじみにはそう呼ばれてるしね。こちらこそ、よろしく。
………で、こちらがメイドロボのマルチちゃん」
「はい。HMX−12 マルチといいます。以後よろしくお願いします」
「なに!? メイドロボ!?
おお、すげえ! 本物だ、本物のメイドロボだ!」
「そ…そんなに近くで見ないでください。恥ずかしいです………」
マルチは思わず顔を赤らめる。

雄二はマルチをまるで中世ヨーロッパの貴重な美術品を鑑賞するような目でじっくりと見た。
メイドロボを欲しがっていた雄二にとって、メイドロボをこんな近くで見ることなどまたとないことだったからだ。
――が、この後貴明が言った一言が一時場を混乱させてしまうことになる。

「雄二、おまえ本当にメイドロボ好きだな」
「えっ? も…もしかして雄くんって人間の女の子にはまったく興味ないタイプ……?」
沙織が少し後ずさる。
「ま…まて新城。違う! 誤解だ!」
あわてて貴明の発言を撤回しようとする雄二。

「いや、普通にメイドさんとか好きだぞ雄二は」
貴明の発言がさらに追い打ちをかけた。
「や…やっぱりそっち系なの………」
「だからちがーう!
貴明も俺の社会的地位を下げるような発言をするなぁぁぁぁぁぁ!!」


「……で、これからどうするんだ?」
誤解も解け、混乱も治まったところで雄二が貴明に尋ねた。
「雄二は見つかったけど、このみやタマ姉、小牧さんたちがまだ見つからないんだ」
「浩之さんにあかりさん、セリオさんたちも…」
「祐くん……あ、長瀬のほうの祐くんね。るりるり、みずぴーもね」
「うーん…じゃあ知ってる連中をしらみつぶしに探していくとしますか?」
「そうですね。これだけいるんですから一人くらい見つかりますよね?」
「だな。あの姉貴がそう簡単にくたばるとは思えないし」
「祐くんたちも」


「――じゃあ、そうと決まれば早めに先に行こうか」
「うん」
「はい」
「ああ。さすがに騒ぎすぎちまった。
敵が俺たちの存在に気がついていてもおかしくねえ」
貴明たちは引き続き友人、知人を探すために灯台を後にした。




 向坂雄二
 【所持品:支給アイテム(ルートにより変化)、他支給品一式】
 【状態:普通】

 新城沙織
 【所持品:フライパン、他支給品一式】
 【状態:普通】

 河野貴明
 【所持品:支給品一式】
 【状態:普通】

 マルチ
 【所持品:支給品一式】
 【状態:普通】

 【時間:1日目午後2時半】
 【場所:I−10】

 【その他】
・貴明、雄二たちは一緒に行動
・雄二の支給アイテムは017を通ったルートなら『死神のノート』。通っていないルートならば別の支給品(どんなアイテムかは後続の書き手さんにおまかせします)になる
・貴明、マルチの支給アイテムは後続の書き手さんにおまかせします
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