人生で一番長い数秒




ここは鎌石村消防署給湯室、二人の女性は楽しそうに料理を作っていた。

―――――――――招かざる客が来るとも知らずに―――――――――

       「はじめちょろちょろ…なかぱっぱ…♪」
プロパンガスに繋がれたガスコンロ、鍋から出る白い湯気
嬉しそうな歌声で(69番)割烹着姿の遠野美凪はご飯を炊いていた。
簡素なテーブルの上には、玉子焼きの乗ったお皿、梅干、紅鮭、自分達の荷物と
そして消防署に備え付けられていた斧が丁寧におかれていた…。

もう一方では、リズミカルな音程でまな板にのった食材を切り刻んでいる。
        たんたんたん♪ザクザクザク♪
大根と白菜を手際よく切り刻むのは(87番)広瀬真希、こちらも割烹着姿。
鍋の中のキッキンペーパーに包まれた出汁の元(勿論煮干)を取り出して、切り刻んだ食材を素早く鍋の中に入れる、どうやら味噌汁を作ってる様子。
ぐつぐつと煮えていく食材達、鍋の中の湯加減のほうも決して煮えたぎらない程度、…じっくりとじっくりと。

美凪は『後どれくらいですか?』と言いたげに真希にアイコンタクトをすると真希は『もうすぐよ』と笑顔を見せる。
その間たいした言葉は交してはいない、どちらも料理に手馴れているからだ。
「ねえ…遠野…。」
野菜を切り終えた所為で手持ち無沙汰になったのか、携帯をいじりながら真希は美凪に声をかける。
「…なんですか広瀬さん?」
鍋の中のご飯を蒸らす段階に入ったのか、美凪はコンロの火を止め真希に相槌を付いて話す。
「あたし達、どうすればいいののかな…。」
やっぱり繋がらないと残念そうに携帯を服のポケットに仕舞いながら美凪に話す…。
「…そうですねぇ。」
「う〜ん。」
お玉の味噌を鍋の中で溶かしながら,真希はスタート時のことを思い出し今後の事を考えていた。

――――数時間前、ゲーム開始、スタート地点D−06)――――

「はぁはぁはぁ…」
87番 広瀬真希は全速力で鎌石小中学校の通り道を北上していた、極度の緊張からか手持ちの荷物と支給品がより重く感じている
「はぁはぁ…殺し合いですって…馬鹿げてる。」
全速力で走った為か所どころで息切れをする、
「はぁはぁはぁ…そうだ!」
手持ちの荷物を地面に叩き付け制服のポケットから携帯を取り出す指は震えていたが支障は来たさない、
三つの数字とエンターボタン俗に言う110番…しかし。
『…ツーツーツー。』
と言う音が続くだけ、つまり電波が届いてないのだその場にゆっくりとへたり込む真希、そんな時…。
ガサガサガサッ
真希の後ろから草葉を掻き分ける音がする、恐怖の為か後ろを振り返る事が出来ない…。
ほんの数秒のことだが、人生で一番長い数秒…恐る恐る後ろをふり返る真希、そこには

長身の女性が…。(真希は恐怖する)

真希を無表情で見つめ…。(ナンテ表情スルノヨ。)

ポケットの中から…。(コワイ。)

【お米券】を…!!(死…ヌ…!!!)

      「手渡す」

  「………へぇっ///!?」

「お近づきに進呈〜♪」
真希は魂が抜けたようだった…。
――――――――――――――――――――――――

「あははははははっ!うひゃひゃひゃっ!!」
大爆笑する真希、過去の自分の事だが笑いが止まらなかった。
ゲーム開始時の恐怖、自分のビビリ具合、美凪のインパクト、そして今(オチ)!
三拍子どころか四拍子これが笑わずにはいられないのだろう。

「…そんなに怖かったですか?」
大爆笑に釣られてか、美凪の口元も自然と緩む。
「あははっだってねえ、あんなことが有ったのに数時間後にはキッチン探し歩いてココに来て支給品で料理作ってるのよ///」
笑いがまだ止まらない所為で簡潔に言葉を纏め切れていない、しかし楽しそうだった。
「「和の食材セットと割烹着&頭巾(防弾性)×3ばんざ〜い。」」
割烹着姿の真希と美凪は楽しそうに万歳をする。

「しかし何だねぇ、あんな長い数秒はもう無いだろうね。」
真希は笑いが治まってきたのか、味噌汁を配膳しながら、いつもの口調で話しかける
美凪は炊けたご飯をよそおいながら「ふふっ」と笑う
「作りすぎた物ね、クラスの奴らにでも食べさせたい位よ。」
テーブルの上には、[ご飯・玉子焼き・のり・味噌汁・紅鮭・梅干]
世間的には良くあるが、実際は中々勢ぞろいすることはない朝ごはんと言った感じだ。
「そうですね、食べさせてあげたいです…。」
寂しそうな表情の美凪、道中で聞いた『みちる』という子の事を心配しているのかと真希は察した…。
「まっ余ったご飯はおにぎりにするとして、味噌汁はちゃんと飲んじゃってよ、これは真希さんの特性♪エッヘン!」
割烹着姿で手を腰に当て胸を張る真希、余程の自信作なのだろう。」
「今日のご飯も良い炊き加減です、エッヘン!」
つられて同じポーズをする美凪
「はははははっ。」と給湯室中に二人の笑いがこだまする。

――――――招かざる客がすぐ其処まで来たとも知らずに――――――


男は部屋の中へと入る…。

「「ではっ全国のッ!!」」(ドアがゆっくりと開く)
まだ二人は気づいていない…。

「「農家と」」(ドアの狭間から銃口が煌く)
真希が気づく…。

「「漁師さんに」(開いたドアから男が顔を覗かせる)
美凪も気づく…。

 「感謝をして…。(真希は死の覚悟をきめた)

男が嬉しそうな顔をして手を合わせた…!

【美味しいご飯とお味噌汁いっただきま〜す♪】

「………へぇっ///!」
広瀬真希87番、数時間前こんな感じの表情をしていた、今度はギャグマンガの如く転ぶ演技付きで…。
――――ズデーン!!!――――

「うまい!…流石は割烹着の魔力!良い炊き加減のご飯!味噌汁は出汁がよく効いてる!」     
…男の名前は北川潤30番、何の因果か味噌汁の匂いにつられてここまで来てしまった、勝手にご飯を食べ初める北川、本当に幸せそうだ。

遠野美凪69番は、悪い人間では無いと感じたのか【お米券】を渡すタイミングを見計らっていた


「あんたは突撃!隣の朝ごはん調査隊かぁ!!」
       ――――スパーン!!!――――
(も…もっと、辺りの状況を見極めるよう心がけないといけないわね…/// )
スリッパで北川の頭に威勢の良い音を鳴らせた直後、真希は心からそう思う事だった。
三人は数時間前まで他人同士、順応の早い連中だった。




【時間:1日目正午三時過ぎ】
【場所:鎌石村消防署】
北川潤
【持ち物:SPAS12ショットガン、水・食料、他支給品一式、携帯電話、】
【状況:冷静・臨機応変(辺りの状況を見極めるよう心がけるが今はご飯と味噌汁)】
広瀬真希
【持ち物:消防斧、防弾性割烹着&頭巾、水・食料、他支給品一式、携帯電話、お米券】
【状況:周囲警戒(もう驚きたくないらしい…。)】
遠野美凪
持ち物:消防署にあった包丁、防弾性割烹着&頭巾(防弾性)×2、水・食料、他支給品一式、お米券数十枚】
【状況:順応、みちるのことが心配】
【その他】
広瀬&美凪はD−06よりスタート
支給品は広瀬が【和の食材セット】
    遠野が【防弾性割烹着&頭巾×3】(ハカロワのメイド服×3のみたいな物だと思ってください。)
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