ゲームが始まって30分ほど経過した頃。 住井護(059番)は友人・知人を探していた。 「折原や長森さんたちは無事かな……?」 この島には安全な場所なんてまずないだろう。 いつ、どこから自分たちの命を狙う敵が現れるかわからない、 生きるか、死ぬか、ただそれだけを決める死神が彷徨っている地獄の箱庭(ミニチュア)。 そんな場所に今自分たちはいるのだ。 だが、僅かでも現状を打破することくらいは出来るだろうと考え、彼は仲間を集めて迫り来る敵に少しでも対抗しようとした。 一人ではこのゲームではまず生き残れないだろう。しかし一人でも多くの同士と行動できれば生き残れる確立は少しでも高くなるはずだ。 ゲームに乗る、乗らないということよりも、今は生き残るほうが大事だというのが住井の考えである。 (人間とは思えないやつもいるってあのウサギは言ってたけど、いったいどんなやつなんだ……ん?) 住井がそのようなことを考えていると、物陰から一人の男が姿を現した。 岡崎直幸(013番)だった。 彼は体中のいたるところに深い傷を負っており、そこから大量の血を流していた。 住井の姿を確認すると直幸はバタリとその場に倒れた。 「! 大丈夫か!?」 住井が駆け寄って見てみると、直幸は今にも死にそうな状態であった。 「しっかりしろ!」 「も…もう私はだめだ……君だけ…でも……逃げるんだ………」 「馬鹿いうな、死にそうな奴を放っておけるか!」 「逃げろ……逃げるんだ…………」 そう言うと直幸は口から大量の血をごぼっと吐き出し息を引き取った。 「お…おっさん! ………ちくしょう」 住井はそう呟き地面を一度叩くと、直幸のバッグに手を伸ばした。 (使えそうなものがあったらもらっていこう……) そう思っていた瞬間、すぐ後ろに人の気配がした。 「!」 振り返るとそこにはナイフを逆手に持つ朝霧麻亜子(003番。以下まーりゃん)の姿があった。 彼女は直幸とは逆で、制服のいたるところに返り血を浴びていた。 「あ〜キミキミ、困るな〜。それはあたしが貰おうと思っていたものなのに〜……」 「まさかお前が………」 「そうだよ〜。その人なかなかしぶとくてさー。ちっともやられてくれなかったんだもん」 「…………」 ――まずいまずいまずい。 住井の頭の中ではその言葉がしばらく繰り返された。 (この女は危険だ。俺がまともに戦って勝てるかどうかはわからない……… 俺との距離はせいぜい5メートルぐらい……ならばここは…………) 住井はこっそりと腰に手を伸ばし、そして、そこに隠していたあるものをまーりゃんに投げつけた。 「くらえ!」 投げナイフ―――住井に与えられた支給品だ。 住井は5本あったうちの1本をまーりゃんの顔めがけて投げつけたのだ。 しかし、住井は所詮素人だ。投げたナイフはへろへろな弧を描きながらあっさりとかわされる。 だが、それこそ住井の狙いだった。 「うわっ。あぶないな〜も〜……って、あ……………」 まーりゃんが気づいたころには住井は彼女の前から逃げ出していた。 「逃げ足だけには自身があるんでね!」 住井の言葉通り、数秒後にはま―りゃんの視界からは完全に住井の姿はなかった。 「あちゃー逃げられちゃったよ。あたしもまだまだだねぇ…… まあ、そんなことより今は…………」 まーりゃんは直幸のバッグを開くと、中からは鉄扇――それも刃が仕込んであるものが出てきた。 「おお、これは便利そう! あ、そうだ。ついでにこれももらっていこ〜っと」 そう言って先ほど住井が投げて今は地面に落ちていた投げナイフも拾う。 「うんうん。出だしは快調快調。 さーりゃん、たかりゃん、そして生徒会の諸君。あたしは君たちが生き残れるためならば修羅となるぞ……」 013番 岡崎直幸 死亡 住井護 【時間:1日目午後12時半ごろ】 【場所:平瀬村(G−3。ただし逃亡中)】 【持ち物:投げナイフ(残り4本)、他支給品一式】 【状況:逃亡中。第1優先目標・自身の身の安置。第2目標・仲間を集める】 朝霧麻亜子(まーりゃん) 【時間:1日目午後12時半ごろ】 【場所:平瀬村(G−3)】 【持ち物:ナイフ(バタフライタイプ)、仕込み鉄扇、投げナイフ(1本)、他支給品一式】 【状況:制服のところどころに直幸の返り血がついている】 【その他】 ・直幸の水・食料等の支給品の入ったバッグは直幸の死体と共にそのまま放置 ・住井のスタート地点はG−03(平瀬村分校跡) ・まーりゃんのスタート地点はE−04(ホテル跡) ・直幸のスタート地点はE−02(菅原神社) ・住井のナイフの1本、直幸の支給アイテム仕込み鉄扇はまーりゃんの手に渡る - BACK