やさしいひと、あまいひと




(不味い……不味い……)
河野貴明(042)はこの状況に混乱していた。
が、それ以上に誰かを殺さないと生き残れないというこの状況に恐怖していた。
誰が自分を狙ってくるか分からない。
親友が自分を狙ってくるかもしれない。
恋人が自分を殺そうとするかもしれない。
これ以上の恐怖があるだろうか。
だから、遠くから聞こえてきた声に過剰に反応してしまった。
「うわぁぁぁぁぁああっ!!」
しまった。
こちらの場所がばれてしまった。
逃げなくては。
何処に?
何処でも良い。
ああしかし逃げた先にさっきの人がいたらでもここにいたら殺される殺されるころさ
「浩之さんですかっ?」
「うわぁぁぁぁあっ!!」
「はわっ!」
目の前に来た女の子が涙目で転んだ。
それで少し落ち着けた。
自分を殺そうとする人は目の前まで来て転んだりはしないだろう。
「ごめん。驚かせちゃったね」
「いえ……あの! 浩之さんとセリオさんを知りませんか?」
浩之……セリオ……?
「ごめん。知らないや」
「そうですか。ありがとうございました」


目の前の少女は行こうとする。
「あ、ちょっとまって」
「はい?」
素直に振り返る。
この人は俺が自分を殺すとは思わないのだろうか。
(まぁ腰抜かして悲鳴上げる人が自分を殺すとも思わないか)
「なんですか?」
「えっと、さっき言ってた人を探してるの?」
「はい! 浩之さんとセリオさんです」
「もしかしてさっきからその二人の名前を呼びながら歩いてた?」
「はい!」
「危ないよ!」
「はわっ!」
目の前の少女はびくっと竦む。
「あ……ごめん……でも、危ないよ。君を殺そうとする人が寄って来るかもしれない」
「そうなんですか?」
「君もあの兎の説明聞いてただろう?最後の一人まで殺しあわせるって」
「はい……でも! 浩之さんもセリオさんもそんなことしません!」
「だから君の声を聞いて君を殺そうと寄って来る人がいるかもしれない」
「あっ!」
気付いてなかったのか……
「ど、どうしましょう……」
目の前の少女はおろおろと忙しなく動いて混乱していた。


(俺は……人を殺せるだろうか……)
目の前の少女を見ていて思う。
(こんなにも無防備な少女を、俺は殺せるだろうか)
……………………無理だ。
「ねぇ、君」
「はい?」
「俺もさ、人を探したい」
目の前の少女が泣き止む。
「君は、俺を殺すかい?」
「っ! いえっ! そんなことは!」
「俺も、君を殺さない。ねぇ、一緒に行かない?」
多分この少女とここで別れたらこの少女は又無防備に探し回るのだろう。
「信じられるかは分からないけど……一緒に、探そう?」
見捨てることは、出来なかった。
少女は暫くポーっと貴明の顔を見ると、
「はいっ! おねがいします!」
と、元気に答えた。


「君の名前は?」
「HMX-12 マルチと言います。よろしくおねがいします」
「俺は、河野貴明。じゃあ、行こうか。今度は静かに、ね」
「はいっ!」




河野貴明
【時間:一日目午後一時頃】
【場所:I-10灯台付近】
【持ち物:デイパック】
【状態:健康、マルチと行動、人探し(誰を探すかは書き手さんに)】

マルチ
【時間:一日目午後一時頃】
【場所:I-10灯台付近】
【持ち物:デイパック】
【状態:健康、貴明と行動、浩之とセリオ探し】
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