U1化する彼女




───菅原神社周辺。森の中。

雛山理緒・上月澪・幸村俊夫・篠塚弥生 死亡。

いずれも開始直後の一方的な射撃によって即死、理緒は頭蓋骨を打ち抜かれ、弥生は銃弾によって
心臓を打ち抜かれていた。

 その中で着替えをしている二人の女性。
 この3名と沢渡真琴らと同じく神社からスタートした、来栖川綾香とHMX-13。セリオである。

「綾香様、これが例の物です」
セリオは自分に支給されたかばんを綾香に渡した。
彼女はその鞄を受け取る。その鞄はパンパンで、いかにも大きい物が入っている事が想像できた。

 綾香はそのかばんの中を開けた。中には黒いスーツみたいな物が入っている。
彼女はそのスーツを外から着込んだ。肩ショルダーや膝のプロテクター等を全て身につける。
なんと言えばいいのだろうか、その姿はまるで近未来の強化兵士である。
頭にはヘルメットとマルチやセリオ等にもある耳パッド。肘や膝には尽く機械のような物がついており
その全身に付けられたプロテクターには『来栖川工業 KPS-U1』という名前。

 その機械のスーツを身に着けると、
「綾香さん、準備は出来ましたか?」と先ほど外した首輪の中から声がした。

「ちょっと待って。今スタート地点の神社まで戻るから。
 見栄えがする場所の方がいいでしょ?何しろ初お目見えなんだからさ」

綾香は、セリオを神社の参堂に立たせ、自分は神社の賽銭箱の前に立った。。
神社には日の丸が何本も立てられている。最初から展示用に作られたイミテーションだという事は一目で分かった。
「いいわ、セリオ。回線を本部に繋いで」

そう言うと、セリオの目に向かって綾香は恭しく礼をした。

「陛下を始め、首相そして大臣の方々、久瀬防衛庁長官も・・・お久しぶりです。来栖川工業副社長、来栖川綾香です。」
「これが来栖川工業開発の最新兵器のパワードスーツ、KPS-U1」
「アメリカ開発のパワードスーツを参考にし、さらにわが社独自の福祉介護用・二足歩行ロボの技術等を使用して
 作った最新戦闘用兵器です。」

 綾香はセリオの目に語りかけた。


───首相官邸。

プロジェクター画面の中にセリオが見た画像がリアルタイムで映っている。

綾香:「そして今回ですが、当社のメイドロボであるHMX-13を戦闘用に改造し、機械化歩兵として世界で初めて
   実戦配備に成功、そして当社のKPS-U1と高度無線リンクを行う事により、パワードスーツを着た兵士と機械歩兵の
   合同攻撃を自動的にとれる新システム『ナチュナル・リンク・バトルシステム』を開発しました。」
綾香:「これは、私の脳の思考をパワードスーツ・KPS-U1で自動的に読み取り、それをペアであるHMX-13に自動
   リンクさせる事により私の手足のようにHMX-13が自動的に動くという新システムです。これにより、『息がぴったり
   合った』を超越する最強の攻撃を繰り出す事が可能になるというものです。」

───沖木島
「それでは今回の新兵器の性能をまずお見せ致します」

そういうと、画面の中の彼女は軽やかにジャンブした。そのジャンプは一飛びで一気に神社の屋根まで軽やかに飛んでいく。
セリオは屋根までとんだ綾香のジャンプを見届けてから、自分も同じく綾香と同じ神社の屋根まで飛んでいく。

二人とも一気に10メートル以上飛翔した事になる。

 菅原神社の屋根からは島の南北西が見渡せた。

 その眺めを見ながら、綾香とセリオは西の方角に向かって腕を立てた。
 「そしてこれがこのパワードスーツの攻撃の一部です!」

 綾香とセリオは腕を振り下ろすや否や二人の腕から機関銃のように弾丸が発射された。
 二人の弾は森をどんどん森を切り裂いていく。

 20発ぐらい撃つと綾香は攻撃を止めた。
 「100`の重さを担いだ状態で、25kmの速度で走る事が出来ます。これと全く同じ機能を同じくHMX-13が
 保有しており、攻撃の際は指令をする事も無く自分の意思と兵士の癖に従って自動的に計算して息をあわせて攻撃します。」

 「実用性も今回は兼ね備えており、3日間の連続稼動が可能なようになっております。
  今回はこのHMX-13とこの私こと来栖川綾香が、尽く敵を滅ぼすのをとくとご覧頂きます様・・・」

 そういうな否や、スーツから警告音が鳴った。二人は身を隠すと直後に銃撃の音。
 明らかに彼女等を狙ったものだろう。だが攻撃は一切当たってないどころか目標すら補足できてないだろう。

 「敵発砲地点、左30度。銃声はカラシニコフAKS−74U、狙撃地点は75m先」
 セリオはその攻撃の分析を終えていた。
 「だーれだ?一気にいってやるわ」綾香の目が輝いた。

 刹那、二人の影が一気に神社の屋根から消えた。

 攻撃したのはNo.46 坂上智代だった。
 この話をどうやら完全に聞いていたらしいが、神社の屋根から飛び降りた2人にあっという間に捕捉されてしまった。

 「あーら、智ちゃんじゃなーい」
 智代は背後にセリオ、前にスーツを着た綾香に一瞬で囲まれた。

 戦うしかない。智代は覚悟した。
 まさか、バトロアを自分の欲望の為だけにやるバカがいた、この軍国政府に仲間を売ったバカがいたなんて
 思っても見なかった。その話を聞いてしまった瞬間発砲してしまったが、このスーツの力を全く予測していなかった。

 「No.46 坂上智代さんですね。死んでください」とセリオはその凶器になっている腕のガトリングガンを向けた。
 だがそれを「ちょっと待って」と綾香が止めた。

 「アンタ、格闘できるんでしょ」
 「なに?」
 「見ての通りよ。こんなスーツ着こんだ状態で銃器つかったらさぁ・・・ハンデ大有りじゃん?だからさ…」
 「ケンカでぇ、殺してあげる」

 相手はパワードスーツだという。という事は銃弾攻撃もほとんど効果無しだろう。
 だが、格闘…関節技なら、相手は二人だが。ひょっとしたら勝機があるかも…そう智代は判断したの『だろうか。』

 瞬間、綾香がジャブを繰り出してきた。それをのけぞって交わす智代を間髪いれずにセリオがボディブローを放つ。

 意識は遠のく。だがこうなったらやるしかない!
 智代は体勢を立て直し、戦闘態勢に入った。ケンカなら誰にも負けはしないという自負。

 しかし何故か、綾香とセリオはお互いに背中を合わせたファイティングポーズをとった。
 囲まれているのでもないのに、智代を横に見るこの構えは変だ。防御しにくい。
 だが、智代は綾香に全力攻撃を仕掛けた。綾香相手に怒涛の64Hit、のはずだった。
 しかし、その攻撃は全て、綾香とセリオの腕で弾かれた。

 ──ばかな!私の連続攻撃が尽く受け止められただと!しかも二人で!

──東京。

官邸はセリオからリアルタイム送られてくる画像に沸きかえっていた。まさに異様な光景だからだ。

何十発も綾香に向けられた攻撃が、セリオの手と綾香の手が全て防がれた。
しかもその動きに全く無駄が無い。まさにセリオが防いでない攻撃を選んで綾香が全て素手で受け止めたのだ。

「普通、こういう接近戦での集中攻撃を2人で無駄なく完璧に止めるなんて芸当は無理だ」
 久瀬防衛庁長官が驚きの声を上げた。
 今度は綾香側のパワードスーツの中に仕込んである視点で再度検証する。
 まるで二人の手の動きが千手観音の手のように、しかも無駄なく彼女の攻撃を全て防いでいた。

「恐ろしい動きです・・・息が合うどころの話ではありませんな。」

これが来栖川工業新開発のナチュナルリンク・バトルシステムというものなのだろう。
 ヘンな話になるが、『一人の場合は』智代の64HITを防ぐのも、本人が見切れれば出来る。
一人の脳、一人の判断で体を動かすからだ。したがって判断が混乱することは無い。
 だが、こう2人で狭い所で防御すると、船頭が多くなって逆にお互いがお互いの腕をジャマしてしまう。

それが一切この防御には無かった。まさに2人の4本の腕と4本の足でお互いをジャマする事無く
智代の攻撃を『完璧に』防いだのだ。

完全に綾香の意思をコンピューターで予測してセリオが綾香の体の一部のように動く。
そして、まるで一つの頭から4本の腕と4本の足が同時に動くように、今この智代という娘の攻撃を二人が弾き返した。
セリオは今、完全に綾香の体の一部になっている。
そしてセリオの動きを予測して、綾香のスーツも自動的に動く。しかも綾香の意思を損害しない程度に。

 画面ごしに、智代の顔が映る。
 2人がかり、しかも初めて見た相手、しかもその相手の薄気味悪さに、絶望とも恐れともとれる表情をしている。
 彼女もケンカは素人ではない。
 少なくとも、この極限状態で異常なものと戦っている、その事だけは分かったのだろう。


──沖木島
「じゃあ、こちらから攻撃と行きましょか」
 こういうと、セリオと綾香が同時に身構える。

智代:「お前たちは・・・二人がかりで私を殺す気か!貴様はバリャドリードだかなんだかの選手だろ!一人で勝負しろ!」
綾香:「そういうわけにはいかないのよ。智ちゃん」
綾香:「これはね・・・実験。お前は被実験体なのよ。だから、まあ頑張ってお国の為に」
二人:「氏にな」

言うやいなや。
綾香が一気に智代の頭を、セリオが一気に智代の足を押さえ込み、2人同時に智代の体を関節技で捻った。
智代の体の骨・・・しかも首と背骨が、同時にねじ切れた。智代にも自分の血管や神経がぶち切れた音が…分かった。

 その直後、二人がまた同時に、智代を空中に蹴り上げた。
 パワード強化された二人の同時の蹴り。首と背骨と足が捻じ曲がった智代の体は
 森の木の上、空中10メートルぐらいの高さまでぶっとんだ。そして

「グッバイ」×2

 体勢を立て直しつつ綾香とセリオは、空中の彼女の頭と心臓に腕からの銃弾の嵐を浴びせる。
 綾香の腕から放たれた銃弾が智代の頭を、セリオの銃弾が智代の胸を同時に蜂の巣にし、
 顔も、服が破け露出した乳房も砕け散り赤く花火の様に蒼空に散った。
 下半身どころか子宮まで露になったその無残な姿はリアルタイムで東京にも配信された。
 それが彼女の最期。

 46番 坂上智代 死亡。




 【時間:1日目午前12時30分頃】
 【場所:菅原神社近く】
 【所持品:カラシニコフAKS−74U、首輪。他支給品一式】
 【状態:逃走中だった】
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