向坂雄二(040番)は海沿いの琴ヶ崎灯台の最上階で一人黄昏ていた。 この『殺し合い』という名のゲームが始まってかれこれ1時間ほど経過したが、 彼はスタートしてしばらく歩いたところでこの灯台を見つけて以降ここでぼーっと遠くを眺めているだけだった。 時より遠くから銃声や爆発音が聞こえたが、それでも彼はただ灯台から見える俯瞰を眺め続けていた。 彼が黄昏ている理由は二つある。一つは彼はゲームに乗る気がまったくなかったこと。(生き残れる自信がなかったとも言える) もう一つは彼の支給されたアイテムのせいでもあった。 「よりにもよって、支給品はボロい大学ノートだなんてな〜〜…」 そう言ってバッグから彼に支給されたアイテムを取り出す。 ところどころ汚れていたりボロボロな大学ノート。 それが彼に支給された武器だった。 「あぁ…どうせ死ぬなら、可愛い女の子とラブラブになってから死にたかったぜ………」 などと彼がぶつぶつ呟いていると、誰かが灯台の中に入ってきた気配がした。 (あー……終わったな俺の短い人生………… 辞世の詩でも考えようかな〜………) などと諦めかけていると、下のほうから女の子の声がした。 「だ…誰もいませんか〜……?」 声はかなり震えていた。 (――ああ、俺と同じような奴が来たんだな……) 雄二は悟った。この声の主である子もきっと自分と同じく運が悪かった奴なんだろうと。 声の主はだんだん上に上がってきた。 そして、その子はついに最上階までやってきた。 「誰か〜……」 「いるぞー」 「ひっ!」 新城沙織(56番)は思わぬ存在に一瞬恐怖した。 「あ、すまん。驚かせる気はなかったんだ」 「こ、来ないで!」 近づいてくる雄二に対して沙織は自身の支給品であるフライパンを構えた。 「だ、大丈夫だ。俺はお前に危害を加える気はないし、加えたくても武器がない。 ほら、これが証拠だ」 雄二は右手にノートを持って両手をあげた。 「一応これが俺の武器。な? これなら信じてくれるだろ?」 「……信じていいんでしょうね?」 「ああ。嘘だとわかったら、その瞬間そのテフロン加工されたフライパンで俺の頭を好きなだけぶっ叩いていい」 「…………そこまで言うなら、今はあなたを信じるわ」 「サンキュー。俺は向坂雄二だ」 「雄二?」 「ああ」 「じゃあ、ゆうくん2号ね。私は新城沙織」 「とりあえずよろしく。 ところで2号って? つーか、1号は誰なんだ?」 「長瀬祐介くん。私の友達だよ。この島に来てるみたいなんだけど………」 「ふーん……そいつのこと好きなのか?」 「え!?」 沙織の顔が一瞬トマトのように赤くなった。 「図星か」 「殴るよ?」 再びフライパンを構える沙織。 「す、すまん。だから、それだけは勘弁してくれ……」 「よろしい」 「――ところで雄くんは、これからどうするの?」 「どうするも何も、俺は戦いってもの全般は得意じゃないんだよな〜……」 「もう。だらしないなあ…… ところでさ。そのノート見てもいい?」 沙織は雄二の支給品であるノートを指差した。 「え? ああ。いいぜ」 ボロい以外特に何もないけどな、と付け足して雄二は沙織にノートを手渡した。 「ありがとう」 ノートを受け取ると、沙織は最初のページを開いてみた。 「――あれ? 雄くん。なんか表紙の内側に英語で文字がずらずらと書いてあるよ?」 沙織が言うとおり、表紙の内側には英語でなにかの文章がずらずらと記されていた。 「ああ、それか。俺英語よくわかんねーからさ。見た瞬間読むの止めたんだよ。 どうせ、悪戯で誰かが詞でも書いたんだろうさ」 「ふうん…」 沙織はこの文に興味があったが、自分も英語は苦手だったので読むのを諦めた。 「お互いついてないわね…」 「まったくだ」 雄二たちは苦笑いすると、これからどうしようかと思いながら遠い水平線の彼方を眺めることにした。 少なくとも、今この景色を目に焼き付けておかないと、もう二度とこれを見ることはできないだろうと思ったからだ。 実は、雄二に支給されたノートの正体は『死神のノート』と呼ばれる 「顔と本名がわかる者の名を書き込めば、書かれた相手は死ぬ」という最強クラスのアイテムで、 英文はその使い方を記したものだったのだが、今彼らがそれを知ることはなかった。 向坂雄二 【時間:1日目午後2時過ぎ】 【場所:I−10(琴ヶ崎灯台)】 【所持品:死神のノート、他支給品一式】 【状態:普通。これから先どうするか検討中。少なくともゲームに乗る気は無い】 【その他:雄二&沙織編1話】 新城沙織 【時間:1日目午後2時過ぎ】 【場所:I−10(琴ヶ崎灯台)】 【所持品:フライパン、他支給品一式】 【状態:普通。これから先どうするか検討中。少なくともゲームに乗る気は無い】 - BACK