独りは怖いよ




ベルの音が響いている。
普段なら何倍もの轟音でも目を覚まさない水瀬名雪(104)は、うっすらと目を開けた。

「...うにゅ。おはようございます〜。」

ふわ。小さなあくびをひとつする。そうすると、自分が制服姿で既に椅子に座って居る事に気が付いた。

「いけない。いけない。また寝てしまったよ。って、あれ?」

身を起そうとして、そこで自分の状況がやっとつかめた。動けない。拘束されている。

「....どういうこと?それに、ここ学校じゃないみたい。」

なにやらモニターから声が聞こえた。ウサギが映っていた。そのウサギが喋っている。

「殺し合いをしてもらう―――」

何の事かまったく理解できなかった。
ただ、話の通り自動で拘束が外れ、出口でデイバッグを受け取った。

「ここはどこなんだろう。」

周りを見渡すが見覚えの無い場所だった。
とりあえず、名雪はデイバッグの中身を確認してみた。
バッグの中身を見ると、水や食料。地図、筆記具のほか、化粧品ポーチと携帯電話が入っていた。

「よかった。武器が入ってたらどうしようかと思ったよ。」

とりあえず、携帯電話をスカートのポケットにしまう。

外に出た名雪は、お母さんの水瀬秋子(103)やいとこの相沢祐一(1)の
姿を探したがどこにも居なかった。
そのかわり聞こえてきたのは銃声と女の子の悲鳴。

「えっ!」

周りを見渡すが誰も居ない。
だが、よく耳を澄ますと、遠くでも銃声や悲鳴らしきものが聞こえる。

「殺し合いって…ホントの事……だったんだ。」

名雪は怖くて頭が真っ白になった。

わたしも……殺されるの?…早く、早く逃げなきゃ。
名雪は走り出した。

どのくらい走ったのだろう。かれこれ1時間は走っていたんじゃないかと思う。
長距離が得意な名雪が珍しく、立ち止まると肩で息をした。
道を外れて森の中に入って踏み分けているうちに小さな池に出た。

「ここは静かだね。でも、ここはどこだろう?池の近くは判るんだけど。」

名雪は改めて何も持っていない事に気がついた。

「あの時バッグ投げちゃったし。」

名雪は初めは道沿いに進んでたが、途中で目つきの悪い男に出逢った。
そこで、襲われそうに思ったので持っていたバッグを投げつけて森の方に逃げたのだった。

「あっ、そういえば、携帯。」

名雪は思いついたようにスカートのポケットを弄った。
名雪の持っている携帯は普通のだが、これはGPSとMP3再生機能付だった。
電源を入れてみたが、圏外の表示が出ている。

「ここは携帯は使えないんだ。でも、何でわたしには武器じゃなくて携帯電話なんだろう。」

名雪はがっかりして携帯をしまった。
他に持ってるのは化粧品ポーチから抜いた、色が綺麗だったルージュとマニキュアだけだ。
名雪は腰を下ろすと身を屈めた。

「…殺し合いなんて…きっと悪い夢だよ。」

でも遠くの銃声はまだ聞こえる。だからこれは夢ではなく現実なんだと思う。

「…怖い。怖いよ祐一。お母さん。早く…会いたい。」
「わたし独りは嫌だよ。」

名雪は声をたてずに泣いた。

携帯はGPSレーダー機能があって、同じ携帯を持っている同士が2km以内なら
相手の居場所がわかる機能やMP3で秘密メッセージが入っているのだが、
この時名雪はそれに気が付いていなかった。




  水瀬名雪(104番)
 【時間:1日目14:00頃】
 【場所:D-04】
 【持ち物:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)
  赤いルージュ型拳銃 弾1発入り、青酸カリ入り青いマニキュア】
 【状況:現在地理解できず。恐怖でややパニック気味。】
 【その他:制服姿、電話の機能に気が付いていない】
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