ボーイ・ミーツ・ガール




春原陽平(058)はスタートと同時にバッグを手にすると、まずはその場から離れることにした。
まずは少しでも安全な場所へ避難する――その方が少しは生き残れそうな気がしたからだ。
もちろん、自分がスタートした場所の確認を忘れない。
「神社か……」
鳥居に社……間違いなく神社、もしくはその類の建物だ。

スタート地点から少し離れたところで彼はバッグからコンパスと地図を取り出した。
「―――スタートしたのが神社だったのがラッキーだったな」
ここは島だ。本土とは違い面積が限られている。神社なんてあってもせいぜい1箇所か2箇所ほどだろう。
その予想は(彼にしては珍しく)確かに的を射ていた。
「ほらビンゴだ!」
春原が広げた島の地図には島には神社はE−02、G−06の2箇所にあることが記されていた。
(さっすが僕!)
思わず嬉しさで飛び上がりそうになる。が、さすがの彼も今はそんなことはしなかった。
自分の命を狙う敵が近くにいるかもしれないのだ。自身の存在を敵に教えるようなそんな馬鹿な真似は今はできるわけがない。
(……岡崎たちがいたらなんて言うだろうな…あいつらのことだから「春原にしてはやるじゃないか」な〜んて言うのかな……?)
春原はふと知人たちのことを思い浮かべた。

「あっ、そうだ。確か参加者名簿があるってあのウサギが言ってたな」
そのことに気がついた春原は再びバッグを開き、中を確認する。
「これかな?」
本らしき形態をしている紙の束を手に取り、早速目を通してみる。確かに、それは今回の殺し合いの参加者名簿だった。
最初から目を通しているうちに、覚えのある名をいくつも見つけた。

(012番・岡崎朋也、046番・坂上智代、047番・相良美佐枝……057番………えっ!?)
自分の前の番号、057番の参加者の名を見た瞬間彼は一瞬自身の目を疑った。

―――春原芽衣。
彼の妹の名前がそこには載っていた。

(な…なんで芽衣まで………)
名簿を持っていた手がガタガタと震える。

(生き残れるのは1人だけ……じゃあ、仮に僕と芽衣が最後まで残ってしまったら……)
春原は妹と銃を向け合う自分の姿を想像した。
(ば…バカ! なに想像しているんだ僕は!!)
頭を左右に勢い良くぶんぶんと振り、今考えていたことを撤回する。

「と…とりあえず、このことは今は置いておいて他の参加者を………」
再び名簿に目を通す。
(090番・藤林杏、091番・藤林椋、093番・古河秋生、094番・古河早苗、095番・古河渚………)
知っている名前だけでも、かなりの人数の人がこのゲームに参加させられていることに春原は愕然とした。
「本当にこいつらと殺し合えっていうのか………?」
今になってこのゲームの本当の恐ろしさを彼は理解した。
そう。このゲームは下手をすると昨日まで仲間だと思っていた者が敵に回る可能性があるのだ。
(そ…そんなの冗談じゃないぞ…………)
春原の手は再びガタガタと震えた。


春原は参加者を一通り確認すると、自身に支給された武器をバッグから取り出す。
―――スタンガン。
支給品の中では属に言う『当たり』の部類に入る代物だ。
(今は自分から人を殺そうとは思わないけど……自分の身も大事だしな……)
木の棒よりはマシだと思い、それをポケットにしまった。そして、左手に磁石、右手には地図を持つと、彼は先へ進むことにした。

(さて…この先待っているのは地獄かな? それとも………)
などと考えて、一歩、また一歩と進んでいると………


いきなり後ろ、それも至近距離からカチャリという音がした。


「え……?」
思わず顔を向けると、そこには自身の顔に銃を突きつける制服姿の長い髪をした少女がいた。

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! いきなりっすかぁ!?」
「落ち着け。そして止まれ、うー」
「う…う〜?」
少女、ルーシー・マリア・ミソラ(120番。以下るーこ)は開口一番春原にはさっぱり意味がわからない単語を口にした。

「るーはうーたちを探している。うーはうーたちに心当たりはないか?」
「ご…ゴメン……さっぱり君の言っていることがわからないんだけど…………」
「うーはうーだ」
「は…はぁ……? と、とりあえず、その銃を下ろしてくれないかな?」
「それはできない。主導権はるーにある。るーの質問に素直に答えろうー」
「…………わかったよ」
春原は自身の最期を予感した。そして半分以上自身の生存を諦め彼女に答えた。

「君の言っているうーって奴は僕は知らないよ」
「そうか」
るーこは頷いた。
「――――なあ君。どうせ僕は今君に撃たれて死ぬんだ。
だからさ。もしよかったら、この後春原芽衣って子に会ったら僕の変わりに彼女を守ってやってくれないか?」
「る?」
「妹なんだ……」

早くも脱落してしまう哀れな兄の分まで妹には生きて欲しい……それが今の春原の最期の願いだった。

それに今自分に銃を向けている子からは不思議と悪意とか殺意とかそういういうものが感じられなかった。
いや。もしかしたら、彼女はこのゲームのことをまだ理解していないかもしれない。
なんというか……純粋というか天然というかそんな類の子だ。しかし、芯は強そうな子だ。
こういう子が一緒にいれば妹も少しは大丈夫だろう……そう考えた結果の頼みだった。
無理なら無理でもいいとも承知している。というより、無理だなと春原は思っている。
いきなり見ず知らずの者を守ってくれとなどと出会ったばかりの者に頼まれて、OKする者などまずいるわけがない。

るーこは答えた。
「………悪いがそれはできない」
「そう……」
春原は苦笑して目を閉じた。
「殺るなら早く殺ってほしい。未練は残したくないんだ」
「…………悪いがそれもできない」
「え……?」
思わず春原は目を開いた。

―――るーこは銃を下ろしていた。

「ど…どうして?」
「るーはうーたちを探す。うーはうーの妹を探す。ただそれだけだ」
「つまり……僕を殺しはしないのかい?」
「あたりまえだ。なぜそんなことをする必要がある。食料ならまだあるしな」
そう言って自分のバッグを春原に見せる。
「食料って……じゃあなかったら僕は…………」
そう言おうとした途中で口を止めた。目の前にいる子が自分の肉を食らう姿など想像したくない。
でも美少女に食われるのも悪くはないかな、などとも僅かに思ってしまった。

「これから君はどうするんだ? うーって奴を探すのかい?」
「無論だ」
「じゃあさ。もしよかったら2人で一緒に行動しないか? そのほうがそいつを早く見つけられるかもしれないし、なにより安全だ」
「………うーと組んでるーになにかメリットはあるのか?」
「僕も男の子だ。少しは役に立つと思うけど?」
「………わかった。うーと一緒に行動しよう」
「本当? やった! これなら芽衣も早く見つけられるかもしれない!」 
春原は今度ばかりは思わず飛び上がってしまった。

「そう言えば自己紹介がまだだったね。僕は春原陽平。君は?」
「るーの名前はるーこ。るーこ・きれいなそら」
「るーこちゃんか。これから先よろしくな?」
「るー」
そう言うとるーこは両手を高々と空に向かって上げた。




 春原陽平
 【時間:1日目正午過ぎ】
 【場所:鷹野神社付近(G−05)】
 【持ち物:スタンガン、水・食料(どちらもまだ消費なし)、他支給品一式】
 【状況:るーこと共に行動を開始。第1優先目標・芽衣の捜索、発見。第2優先目標・自身とるーこの身の安置、第3優先目標・知り合いを探す】

 ルーシー・マリア・ミソラ(るーこ・きれいなそら)
 【時間:1日目正午過ぎ】
 【場所:鷹野神社付近(G−05)】
 【持ち物:銃(どのような銃かは後の書き手さんに任せます)、水・食料(どちらもまだ消費なし)、他支給品一式】
 【状況:春原と共に行動を開始。第1優先目標・うーたちの発見。第2優先目標・自身と春原の身の安置】
 【その他:春原のことは「うーへい」と呼ぶ】
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